
世界で今最も注目を集める経済書、『21世紀の資本』(みすず書房)。著者のトマ・ピケティは、膨大なデータをもとに格差の構造を分析している。その格差を最も広げているのが、アメリカだ。
1980年代以降、超高額の報酬を得る“スーパーCEO”が登場し、アメリカの労働所得の不均衡は、ヨーロッパや日本などと比べて突出した。2000年以降のアメリカのCEO(最高経営責任者)の平均年間報酬は、900万ドル以上。これは、平均的な会社員の給与の367倍にもなる。
そんな“格差大国”アメリカの実態を暴いたのが、ピュリツァー賞を受賞したジャーナリスト、ヘドリック・スミスだ。全米ベストセラーとなった話題作、『誰がアメリカンドリームを奪ったのか?』(朝日新聞出版/原題:Who Stole the American Dream?)で、スミスは労働所得が不均衡になる背景をさまざまな観点から明らかにしている。
ピケティも指摘するように、CEOの報酬が高騰しているのは、彼らの貢献度が上がっているからではない。スミスはそのカラクリのひとつとして「ストックオプション」を取り上げている。
ストックオプションとは、企業の役員や従業員が自社株を購入できる権利のこと。アメリカのCEOや幹部の多くは、ストックオプションが「無料」で、大量に付与されている。スミスによると、1980年にストックオプションが付与されたCEOは全体の3割だったのが、1994年には7割まで上昇。そして2000年には、CEO一人につき「100万株」以上の付与が一般的になっていた。彼らは、このストックオプションを巧みに行使して何億ドルも儲けている。
業績が悪化して株主が損をしている時でも、CEOは「不正」を行って稼ぐことができる。アップルのCEO、故スティーブ・ジョブズもその一人だった。スミスによると、ジョブズはオプションの付与日を買値が低い日付にさかのぼって変更し、2億9570万ドルの利益を得ていたという。このようなストックオプションの不正行為は、全米でとてつもない規模で行われていると、スミスは述べている。投資家のウォーレン・バフェットも、ストックオプションをめぐるアメリカの態度を「非論理的きわまりない」と非難した。
企業幹部に対する優遇にかぎらず、政府も富裕層に有利な減税を行った結果、アメリカでは富の集中が常態化している。日本はアメリカほど深刻ではないものの、アメリカで所得格差が急に広がったことを考えると、同じ道をたどる可能性は大いにある。アメリカが犯した過ちを教訓として生かす時は、すでに来ているのだ。
【関連リンク】
『誰がアメリカンドリームを奪ったのか? (上) 資本主義が生んだ格差大国』
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=16661