威勢のいい対外姿勢は封印。安倍政権発足後、強硬路線は影を潜め、中国や韓国に抑制的な対応をとる。
「安倍氏は派手なことを言ってきましたが、現実的な外交路線をとりますよ。内閣官房参与に迎え入れた谷内正太郎・元外務事務次官の存在が大きい」
と指摘するのは首相ブレーンの一人。谷内氏は2005~08年に外務次官を務めた。安倍氏は官僚と会う際は原則、閣僚同席だったが、谷内氏とはサシでよく会った。
谷内氏や経済界がこぞって求めているのが、環太平洋経済連携協定(TPP)の推進だ。
このTPPが、盤石に見える自民党政権に亀裂を生んでいる。
自民党は衆院選で「聖域なき関税撤廃を前提にする限り反対」と掲げ、「絶対反対」の農業団体から強力な支援を受けた。参院選で勝つためにも支持の引き留めは不可欠といえる。
一方で、TPP交渉参加は日米同盟強化を掲げる首相の理念と合致する。安倍氏は衆院解散時、自民党の支持団体を意識してか「聖域なき関税撤廃を前提とする限り、交渉参加に反対だ」と述べたが、就任後は「国益にかなう最善の道を求める。状況を分析しながら総合的に検討したい」と、交渉参加に含みを残している。そんな状況を忖度(そんたく)した高市早苗政調会長が、
「交渉に参加しながら条件が合わなかったら脱退する選択肢もゼロではない」「(交渉参加は)内閣が決めることだ」と交渉参加を容認する発言をしたことから、党内の反対論に火がついた。
交渉参加に反対する議連会長の森山裕衆院議員は「議院内閣制を否定するような言い方だ。与党の国会議員で政策を決めるのが基本だ」と指摘。議連メンバーの中谷元・元防衛庁長官も「党内論議をおろそかにした民主党政権と違い、部会や総務会で重層的に意見を積み上げていくのが自民党だ」とクギをさす。
今回の騒動は、ベテランの細田博之幹事長代行が「あらかじめギロチンに首を差し出すようなことはすべきではない」と一喝し、一旦収束した。しかし、安倍氏がオバマ大統領との会談で交渉参加に前向きな発言をする、との観測は消えない。
※AERA 2013年1月21日号