かといって、従来の手口がなくなったわけではない。警視庁によると、「キャッシュカードが悪用されている」とだまし、カードに切り込みを入れて使用できないと誤解させ持ち去る「キャッシュカード切り込み詐欺」による被害は、管内で2020年1月から9月末までに239件、金額5億円超。
また、同様にだました上で、キャッシュカードを封筒に入れて保管するよう指示し、事前に用意した別のカード入りの封筒とすり替える「キャッシュカードすり替え詐欺」では、同期間に642件、金額は11億円超にのぼる。
その手口を、実際の犯行事例で紹介しておこう。
6月にキャッシュカード切り込み詐欺に遭った東京都目黒区の70代女性は、警察を名乗る男から「大阪のコンビニ店であなたの口座から60万円が引き出された」という電話を受け、気が動転。問われるままに暗証番号を答えてしまった。
数時間後、自宅に来た警察職員を名乗る女が「犯罪に使われたので破棄する」と言い、女性のキャッシュカード8枚とクレジットカードにハサミを入れ、「裁判所に持っていく」と言って封筒に入れて持ち去ったという。こうして盗まれたカードで計1600万円余りが引き出された。
カードに切り込みを入れても、磁気テープやICチップなどが傷つかなければ、ATMで使用できるという盲点を利用した手口だ。
3月にキャッシュカードすり替え詐欺に遭った川崎市の80代女性は、警察を名乗る男から「口座が不正に利用されている」と電話で知らされた。その後に自宅を訪れた男は、用意した封筒にカードと暗証番号を書いた紙を入れさせ、「悪用されないように封印する」と言い、印鑑を取りに行かせている隙に封筒をすり替えて詐取。盗んだカードでATMから現金300万円超を引き出した。多額の引き出しに気付いた銀行が女性に確認して事件が発覚した。
多田氏によると、振り込め詐欺などの特殊詐欺の被害は20年に入って関東圏などの都市部で減少傾向になり、関西圏や地方部で増えたという。「関東圏では詐欺への警戒心が強まり、ターゲットの地域を変えてきたのでしょう」と多田氏。