ところが菅政権は「人事に関することはコメントしない」という理屈で理由の開示を断固として拒否している。説明できないからでもあるでしょうが、一方で説明しないことの“効果”は侮れません。政権に排除された理由への疑心暗鬼や忖度が広がり、説明したとき以上の自粛や萎縮効果が期待できるからです。これは統治者にとって好都合でしょう。

 もう一点、警備・公安部門出身の元警察官僚にこれほど絶大な権限を握らせることの是非も考えるべきです。杉田氏だけでなく、警察庁出身で内閣情報官だった北村滋氏は、2019年9月から外交・安保政策の司令塔を担う国家安全保障局長に出世しています。つまり官僚人事から外交、安保分野に至るまで警察官僚出身者が牛耳っている。まぎれもなく戦後初めての事態です。

――警察と政治が一体化することの危険性は、戦前の特高警察の所業などからも明らかです。菅首相はそうしたことに無自覚なのでしょうか。もしくは危険性はわかっていながら、権力を誇示する“見せ方”として使っているのでしょうか。

青木:政治記者ではない僕に菅首相の内心はわかりませんし、さほど興味もありません。ただ、官房長官時代に菅氏の番記者だった毎日新聞の秋山信一記者は、最近の著作で「権力」に関する菅氏のこんなせりふを紹介しています。「重みと思うか、快感と思えるか」と。権力行使を「快感」と捉える為政者は非常に危うい。

 ふるさと納税制度に異を唱えて左遷された元総務官僚の平嶋彰英氏も、菅氏の権力に対する意識を垣間見たことがあるそうです。菅氏が総務副大臣の時代、平嶋さんを含めた総務省幹部と会食をした際の第一声が「俺は官僚を動かすのは人事だと思っている」だったと。

 その後に平嶋氏はふるさと納税をめぐって菅氏と対立しますが、最終的には菅氏の意向どおりに政策を立案した。なのに人事では制裁を受けた。要するに徹底した服従と忠誠を求めるタイプなのでしょう。平嶋氏は「あんなひどい政治家は初めてだった」と吐き捨てていました。

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