矢内:「もうやれない」と思ってる人はたくさんいます。政府は一方でイベントの入場制限を延長してコロナを抑えようとして、もう一方で経済復興のためGo To トラベルで消費の喚起をしようと、二刀流で対応しようとしています。この考え方は理解はできますが、それならそれに対応した予算をつけてほしい。私はGo To トラベルは、経済再興としてこれはこれでいいことだと思うんです。そのために2兆1千億円ぐらいの予算を組んで、旅行費用の35%がキャッシュバックされて、15%はクーポン券として地元で使えて、合計50%戻ってくるという非常に手厚い内容ですが、それに比べると、ライブ・エンタメ業界に対する政府の支援は非常に微々たるもので、1800億円ぐらいのあまりに貧弱な予算なんです。
林:そんな程度なんですか。
矢内:Go To イベントも始まりましたが、これも不発です。消費者への還元は、チケット1枚につき上限2千円なんですよ。旅行で5万円使えば2万5千円戻ってきますが、5万円のオペラのチケットを買っても2千円しか戻りません。Go To トラベルであれだけ手厚い補償をしてるんだから、ライブ・エンタメ業界にもちゃんと補償をしてほしいと思いますね。ライブ・エンタメ業界のマーケットは9千億円ぐらいあるんですが、ぴあ総研の調べでは8割が棄損します。年間売り上げが8割なくなったら普通潰れます。私は、ライブ・エンタメ業界がほとんど補償のないまま、政府の感染拡大防止策のスケープゴートにされていると思ってます。
(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)
矢内廣(やない・ひろし)/1950年、福島県いわき市生まれ。72年、中央大学在学中にアルバイト仲間とともに雑誌「ぴあ」を創刊。74年、ぴあ株式会社を設立し代表取締役社長に就任。84年、オンラインによる日本初のチケット販売サービス「チケットぴあ」をスタート。オリンピックなど世界規模のイベントのチケット販売も多数手掛ける。また、77年から「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」の開催を続けるなど、文化支援活動にも力を注ぐ。2003年、東証1部上場。一般社団法人日本雑誌協会常務理事、公益財団法人ユニジャパン評議員、公益財団法人新国立劇場運営財団評議員なども務める。
>>【後編/ぴあ社長・矢内廣「地方のコンサートは減るかも」 コロナ後のエンタメ業界は…?】へ続く
※週刊朝日 2021年1月29日号より抜粋