都心オフィスの稼働も鈍くなっている。オフィス仲介の三鬼商事によると、21年2月の空室率は5.24%で、前年同月の1.49%から大幅に上がった。
そんな状況にありながらも、新たなオフィスビルの建設は進んでいる。大規模になるほど長期計画で進んでいるため、見直しが難しい。都心ではこうした新規ビルが次々にでき、「23年が大量供給の年になる」(今関さん)という。
空室率が上がるなか、オフィス供給が止まらない“需給ギャップ”で、どうなってしまうのか。
「テナントの“ドミノ倒し”が起こる」と指摘するのが、オラガ総研の牧野知弘代表だ。
そう聞くと素人は、新築された大規模ビルが空っぽになるようなイメージをいだくが、少し違うらしい。「テナントが入ることが期待できないとみるや、必ず他のビルからテナントを奪う」動きが出るというのだ。
「うちのビルなら1フロアでまとまります」「効率よく仕事ができます」「家賃は勉強します」とPRし、営業が過熱していく。まさに“弱肉強食”の世界で、大規模な新築ビルが次々とドミノ倒しのように、中小ビルからテナントを奪取。敗れた中小ビルは、やがて賃貸住宅やホテル、商業施設などへとビルを衣替えしていくのだという。
ただ近年は、都心のオフィスビルでなく、マンションに建て替える動きも目立つ。例えば、倉庫街だった東京湾岸の晴海地区は、いまや高層マンションが立ち並ぶエリアに変貌した。
世界の主要都市と比べ、オフィスビルだらけだと評される東京。これがテナント争奪戦のドミノ倒しで、英ロンドンや仏パリのように、首都中心部に劇場やコンサートホールなどを備えた街に生まれ変わるかもしれない。
一方、企業が都心オフィスを縮小したり、分散したりする動きは、郊外に新たなニーズを生み出している。
郊外に住む社員が、自宅以外で働ける「サテライトオフィス」「コワーキングスペース」といった場所がそれだ。本社にいなくても、自宅近くに通信環境の整った拠点があれば、快適に仕事ができるからだ。