元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
【写真】ムッとした時は、いつもカワイイ落ち葉を愛でて心を整える
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マイナカード問題。色々思うところあり、あの手この手の巨費をかけた勧誘活動をシカトし続けている私の元へ先日またぞろ「交付申請のご案内」が届いた。ここまでくると今回は一体何を言ってくるのやらと興味も湧き、案外いそいそと中身を拝見。これがまた期待を裏切らないスゴい内容である。
まずカードを作る最大のメリットが「ポイントがもらえる」という構造は相変わらずだ。最大2万円分という大盤振る舞い、月末までと急かすところもどこぞの悪質商法のよう……っていうか、何度も書くがどう考えても邪道すぎるでしょ! その先に何があるかボカしたままカネで国民を釣るなんて。っていうかその先に何があるかうまく説明できないからカネで釣るんですよね。しかもそのカネは我らが働きコツコツ納めた税金……。という批判が出ることを意識したのか、今回はカードを作るメリットが少々厚めに説明されていた。
「ワクチンの接種証明書がスマホアプリで発行できる」「給付金の受け取りがスマートに」……うーん、いずれも大したことねーなと思って読んでいたら、ある項目で目が点に。「カードを健康保険証として利用する方は、通常の保険証の場合よりも初診料等の負担が小さくなります」。えー! そそそんなことがっ。
国家の最大の役割とは国民の命と健康を守ること、少なくとも「守ろうと努力する」ことなんじゃないでしょうか。でもこの記述を見る限り、国は自らの方針に追随する人とそうでない人とでは守る命に差をつけるつもりらしい。こんなことが白昼堂々と行われることに心底驚く。
っていうか、そもそもこんな酷いやり方に関係省庁のお役人の誰もオカシイと声を上げないのだろうか。上から言われたからと思考停止してブルシットな仕事もこなすのが優秀な公務員なのだろうか。我らの税金はそのような公務員を支えることに使われているのだろうか。IT化で無駄を省くというが、こっちの方が壮大な無駄なんじゃないかと私は思う。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2022年12月12日号