

コロナ禍を機に、自分や家族の日常生活を見直し、日々をちゃんと生きようと考えるようになったという俳優・キムラ緑子さん。それは同時に、人間としてのスピリットを磨くことにもつながった。
【前編/正直すぎるベテラン俳優・キムラ緑子「作品の面白さがわからない」】より続く
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学生時代につかこうへい作品に触れて衝撃を受け、現在のパートナーであるマキノノゾミさんの劇団「M.O.P.」の旗揚げにも参加した。2010年まで劇団の看板女優として活躍したほど演劇畑をメインに活躍してきたが、わからないものは「わからない」とはっきり言うところが痛快だ。
「翻訳劇も、正直いうと、面白さがあまりよくわかってないんです(笑)。特にシェイクスピアなんて、戯曲に書かれているのは嫉妬とか裏切りとか、誰かに会いたいとか、極めてシンプルな感情でしょう? それを詩みたいなセリフで大げさにまくし立てるわけで、読むだけでは何が面白いのかわからない。でも、自分の魂とちゃんと向き合っている俳優が演じることで、キャラクターが魅力的に見えてくることがあります。以前、マクベス夫人を演じていた田中裕子さんは、とても素敵でした。あの方には魂だけじゃなくて、ちゃんと技もある。芝居の形や技の中に魂が映るんです」
田中裕子さんの名前が出たので、「以前インタビューをしたときに、『大役を演じることよりも、日々普通に暮らしながら、季節の変化に気づくことのほうがずっと生きている実感がある』とおっしゃっていたことがあります」と伝えると、「素晴らしい!」と叫んで、「私もそうやって生きていきたいです」と続けた。
「実は、コロナ禍になって、やっとそこに一歩足を踏み入れる感覚になったんです。長く生きていると、わかることがどんどん増えていく。まだまだ私なんて未熟ですよ、でも、昔より確実に見えるものは増えた。経験値が少ない頃は、『自分がこうなりたい』『自分がこうしたい』ばかりだったけれど、もうね、諦めた(笑)。『結局はみんなおんなじことをやって、おんなじことを考えて、おんなじようなことを思いながら死ぬんだな』ってことがわかったので。どんな偉大とされている人でも、無名の人でも、魂が感じることに、大した違いはない。そこに気づいた途端に、日々の何気ないことに幸せを感じられるようになったんです」