三つのポジションで奮闘した伊東がそう振り返ると、司令塔の鎌田はこう続けた。
「前半のまま終わっていたら、一生後悔した。森保監督が布陣を変えたおかげで、勇気を持ってプレーできたことがすべて」
前半に1失点したあとも、ドイツの猛攻は続き、最終的にシュート数は25対11と差をつけられた。相手のシュートがポストに当たるなど運が味方した場面もあったが、自らのミスで招いたPKで失点しながらも、その後は冷静なプレーで2点目を与えなかった守護神・権田はこの試合のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれるなど活躍した。
「PKがなければもっと良かったんですけど……。とにかく勝ててよかった」(権田)
日本が枠内シュート3本で2点を取ったのに対し、権田はドイツから8本の枠内シュートを受けながら失点はPKの1点にとどめた。
「2点目を与えていたら、さらに苦しくなっていた。後半は布陣が変わったこともあるが、みんながアグレッシブにチャレンジし続けたことがよかった。ただ、勝って盛り上がるのはいいが、まだ何も(1次リーグ突破が)決まったわけではない」
権田はそう言って気を引き締めた。
W杯のような短期決戦では技術や戦術以上に、ときに勢いや結束が大切になる。日本は同点、そして決勝ゴールが生まれた際に控え選手も全員がベンチを飛び出し、ゴール裏近くまで走って得点者を称えるなど雰囲気のよさを感じさせた。
その先頭に立っていたのが、このドイツ戦でW杯出場12試合目と日本歴代最多を更新した36歳の長友だ。
酸いも甘いも知るベテランは試合前日に髪の毛を金髪から真っ赤に染めるなど、チームを盛り上げるためにできることは何でもやった。
「この髪の色には日の丸や、みんなの情熱を込めました。若手に伸び伸びプレーしてほしいし、W杯はいつもと違うと。ここまで来たら、大事なのは気持ち。みんなに喩えでサムライの話もしました。いくらすごい武器を作り、鍛錬して技を磨いても、目の前の相手にビビったらすべてが無駄になる。それはサッカーも同じで、ドイツ相手にも絶対に敵を倒す気持ちで向かっていこうと。今日は、ドイツよりも日本のほうが、戦う気持ちで勝っていたはず」
試合前から、
「コラージョ! コラージョ!(イタリアで勇気や自信の意だという)」
とチームメートに発破をかけ、チームをもり立ててきた長友は勝利の陰のMVPと言っていいかもしれない。長友は言う。
「過去と比べるわけではないが、チームの雰囲気は最高」
1試合が終わっただけ。27日にコスタリカ戦、そして12月1日(日本時間2日)にはスペイン戦を残している。ただ、この勢いはまだまだ続きそうだ。
(ライター・栗原正夫)
※AERA 2022年12月5日号より抜粋
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