運輸や物流が典型だが、乗客があまりいないところで長い距離を走ってもコスト効率は悪化するばかりである。これは小売業や飲食のような店舗ビジネスでも同様で、顧客が多くいるところにできるだけ集中出店したほうが、店舗稼働率は上がるし、店舗数が増えても管理は楽で、店舗間の物流効率もよくなる。医療や介護も拠点型なので経済的に同じ性格を持っている。密度を無視した拡大は「規模の不経済」になってしまうのだ。
自動車産業のようにグローバル競争の中にいないので、世界一になる必要はない。県大会で一番、場合によっては市大会や町内大会でのトップで競争に勝てる。守りに強いビジネスなのである。
冨山氏は東北地方で路線バス事業を営んでいるが、仮にベトナムのバス会社がハノイで20分の1の人件費でバスを走らせていても、まったく競合関係にならない。これがグローバル型産業の電気製品メーカーの工場なら、ベトナムの工場とガチで戦うことになる。
こと事業の存続という観点からは、この違いは決定的に大きい。こうしたローカル企業の活性化が日本再生のカギになるというわけだ。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2021年9月10日号