
北野武監督の『ソナチネ』で映画デビュー以降、数多くの作品に出演している津田寛治さん。順風満帆に見えるキャリアだが、俳優として悩んだ時期もあった。
名バイプレーヤーとして映像作品に引っ張りだこの津田さんだが、「このままでは俳優としてダメになる」と、危機を感じたこともある。40代後半から50代の初めぐらいに、「このまま、現場に求められる芝居を、器用にやれるだけの俳優でいいのだろうか」という、俳優人生初の壁にぶち当たった。
「そこで、到達した答えが、“原点回帰”でした。何の武器も持たずに、本当に気持ちだけでエチュードに挑戦したら、『これが芝居だ』と怖い演出家に言われた劇団での最初のレッスン。それと、武さんに、『適当にやって』と言われて、無我夢中でやってたアドリブ芝居。自分なりにトンネルを抜け出そうともがいたら、あのときの気分に戻っていたんですよ。ほとんどの俳優は、『お前、ギャラ泥棒か?』って言われないように、カメラの前では何かしなきゃいけないと思ってる。でも僕は『ソナチネ』で何もしないところから始まっているから、映画が『何が起こるかわからない世界』『台本どおりにいくもんなんかじゃない世界』だってことが身に染みています。どんどん変わっていくことで、目を見張るような何かが起こるドキュメントが“映画”なんです。だから、この先もずっと、生まれて初めてエチュード芝居をしたときや、北野監督の前でアドリブをしたあの頃の気持ちで挑まなきゃダメだよなって思って」