津田寛治(つだかんじ)/撮影:写真映像部・戸嶋日菜乃 ヘアメイク/黒木翔 スタイリスト/三原千春
津田寛治(つだかんじ)/撮影:写真映像部・戸嶋日菜乃 ヘアメイク/黒木翔 スタイリスト/三原千春

 高校卒業後に福井から上京し、アルバイトで食いつなぎながら、芝居を学ぶために劇団の養成所に入った。最初に受けた演技のレッスンで演出家がくれた言葉は、今でも忘れられないという。

「稽古をつけてくれた演出家が、もうめちゃくちゃ怖い方で(苦笑)。『お前らどういうつもりでここにいるか知らないけどな、甘い気持ちじゃやってらんねぇぞ。まずエチュードからだ』とか言って、片っ端から即興芝居をやらせるんだけど、みんな途中で止められた。『芝居なんかする必要ねぇんだよ、気持ちでやれ』『今年はろくなやつがいねぇ』って怒鳴りまくるんです。心臓が爆発しそうになりながら、自分の番が来て、やってみたら、突然その演出家が、『芝居ってのはこういうのをいうんだよ!』って。俺もびっくりですよ(笑)。『こいつは、声の出し方からリアクションから全部バランスが取れている』なんて、めちゃくちゃ褒めてもらえたんです」

 学校では一回も褒められたことのなかった津田さんにとって、その言葉は俳優を続けていく上での大きな勇気になった。でも、同じ芝居でも、舞台のシステムは性に合わなかった。

「学生時代のトラウマもあったんでしょうけど、同じ場所に通って箱の中で何かするみたいな行為がどうしても耐えられなくて。体を動かすなら外でやりたかった。それでいて、『この駅のホームに立ってる自分って、めちゃくちゃいいのに、何で誰も撮ってないんだろう』『いい演技の無駄遣いだよこれ』みたいな、根拠のない自信とエネルギーだけはわきまくってて。アッハッハ。それで、バイト先の喫茶店にやってきた北野武さんに『使ってください!』って売り込んだんです」

 最初に起用された「ソナチネ」では、ウェーターの役が用意された。セリフは「すみません」の一言だけ。すると、突如ウェーターが女性のお客さんをナンパする設定に変わり、「この5行、言える?」と、走り書きの5行のセリフを渡された。

「つっかえつっかえ言ったら本番になったので、『覚えてないし、自分のアドリブで言うしかない』と思ってアドリブで言ったら、『あんちゃん、沖縄も連れていこうか』と言われたんです。北野監督の現場は、毎回すごく緊張感はあるけれど、俺の場合は『駄目だったら、監督が編集で切るんだからいいや』って思って毎回、適当にアドリブを入れてたら、そのアドリブの部分を使ってもらうこともあったり(笑)。監督から『こんなの、俺はもうやってらんないよみたいな感じのことをさ、しばらくしゃべっててもらっていいかな』と、丸投げな感じで芝居をやらされて。それを撮っていただいたりとか」

津田寛治(つだかんじ)/撮影:写真映像部・戸嶋日菜乃 ヘアメイク/黒木翔 スタイリスト/三原千春
津田寛治(つだかんじ)/撮影:写真映像部・戸嶋日菜乃 ヘアメイク/黒木翔 スタイリスト/三原千春

(菊地陽子、構成/長沢明)

※記事後編>>『津田寛治、40代後半でぶち当たった壁 現場に求められる芝居だけでいいのか』はコチラ

週刊朝日  2022年11月25日号より抜粋

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