作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、女性を狙った事件とその動機について。
【現場】「幸せな女性みると殺したい」小田急線で包丁振り回し10人を刺した事件の駅の様子
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先日、公認会計士の23歳の男性が、通りすがりの女性を殴り、逮捕された。女性は2週間のけがを負ったという。たとえけがを負わなかったとしても、いきなり通りすがりの男から殴られた恐怖はどれほどのものだったろう。この男は、違う日にも見ず知らずの女性に膝蹴りをして逮捕され、なぜかすぐに釈放されている。これまでも女性にわざとぶつかることなどを繰り返していた疑いもあるという。
「酒に酔っていたのでわからない」と男は警察でそう話したという。見ず知らずの女性に暴力を振るった動機が語られることは期待できないだろう。というより彼自身にすら、動機が何だったかなど、わかっていないかもしれない。
統計が取られているわけではないのでわからないが、女性としてこの国を生きている実感からすれば、痴漢にあうのと同じくらい「わざとぶつかられた」女性は多いのではないか。痴漢にあったことがない、という女性に私は会ったことがないと断言できるし(「満員電車に乗ったことがないので痴漢にあったことはありません」という人はいるが、よくよく聞いていると、道ばたで性器を見せられたり、通りすがりに性的な言葉を吐かれたり、お尻を触られたりなどの経験はほぼ全員している)、ここ数年は「ぶつかられた」という声を本当に多く聞いてきた。
私自身、通りすがりにいきなり男に頭をはたかれたのが1回、突き飛ばされたことが1回ある。多いのか、少ないのか、平均なのかはわからない。突き飛ばされたのは3年前。前から歩いてきた50代くらいの男性に肩を思い切りぶつけられ転んだ。怖かったが、「わざとぶつかる人がいる」という声がSNSですこしずつ認知されていたこともあり、すぐに男を追いかけて背後から声をかけた。「ちょっと! 今、わざとですよね?」(←抗議する時にも丁寧語で話してしまうという種類の悔しさもある)、すると驚いたことに男はゆっくりと振り返り、「邪魔なんだよ!」と私の目を見て堂々と吐き捨てるように言ったのだった。