「三國さんの文章を読むとぼくの中の少女が喜ぶんです」
そう語ったのは、人気ニットデザイナーの三國万里子さんのエッセー『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』の担当編集者(40代男性)だ。元野球部で野球関連のノンフィクションを担当することも多いという、元祖・体育会系男子。そのギャップに驚きつつも、妙に納得させられてしまったのは、本著に「幸福な記憶」が散りばめられているからだろう。
「はじめてのエッセー集なので、どう読まれるのか不安もありました。私のようにものを作っているような人に受け入れられるというのは何となくわかるんですけど、そうじゃない人、男性でしかもこんな健やかな感じの人に褒めてもらえたことが、とても嬉しかったんです」(三國さん)
ニットデザイナーとしての作品解説など、これまでも書く機会は幾度となくあった。しかし、自らの心情を書き溜めるということは未知の世界。三國さんは、いかにしてエッセーを書くに至ったのだろうか。
「今から5年ほど前に、一緒に仕事もしている友人二人から、『何か書けるんじゃない? 書いてみたら』と言われたのがきっかけです。どういう風にとか、どこで発表するとか、何も決まっていませんでした。書けるようなら好きに書いてみてって。それから書いたものをその友人たちにメールで送って読んでもらうようになりました」
友人が読者というのも三國さんにとっては書きやすかった。エッセーを送ると喜んでくれるのも嬉しかった。そして、書くことは編むことにとても似ているということにも気づかされた。こうして自分の子ども時代から現在までのさまざまな出来事がランダムに紡がれ、やがてエッセー集として産声を上げると、谷川俊太郎さんや吉本ばななさんら、多くの人の心を瞬く間に揺り動かしていく。
<「おばさんになったら、もっと鈍感になって、生きることが簡単になるかな。でもそうしたら、生きてるって言えるかな。そうして鈍感になってまで生きる意味なんて、あるかな」/わたしは子供部屋で日記を書いた。/その答えを言おうとして、わたしが今ここにいる>(「苺」より)