2月24日、ロシア軍はウクライナに全面的な侵攻を開始した。「戦争」は、矛盾を抱えながらかろうじて維持されてきた世界秩序の「軋み」をあらわにした。AERA 2022年3月14日号で、「核を巡る秩序」について、副島英樹・朝日新聞編集委員が綴る。
* * *
プーチン大統領は「ロシアは最強の核大国の一つだ」と宣言し、戦略核の臨戦態勢に入るよう命じた。核兵器を誇示した威嚇がエスカレートしている。通常戦力で北大西洋条約機構(NATO)に大きく劣るロシアにとって、核兵器に頼るしかないことの裏返しでもある。
世界は今、米国が広島・長崎に原爆を投下して以降、初めて核兵器が実戦使用されかねない事態に直面している。これがさらなる核拡散を誘発しそうだ。
ロシアは常に米国の行動の後追いをしてきた。隣国ベラルーシへの核配備の動きも、米国がNATO加盟国のドイツ、オランダ、ベルギー、イタリア、トルコに戦術核を配備する「ニュークリア・シェアリング(核共有)」を口実にした行動だ。日本でも安倍晋三元首相や日本維新の会が「核共有」の議論を求め始め、「ウクライナが核を持っていれば侵攻されなかった」との意見が再燃している。
米ソ冷戦末期、世界の核弾頭数は最大で7万発に達した。減少に転じる起点は、米国のレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長による「核戦争に勝者はない」との共同声明(1985年)だった。信頼が醸成され、冷戦終結にもつながる。現在は約1万3千発だが、その9割以上が米ロの保有だ。中国の台頭と今回のウクライナ危機で再び核が増強に転じかねない。
核不拡散条約(NPT)で核保有が認められている米ロ英仏中の5カ国が今年1月、「核戦争に勝者はない」との共同声明を出した。主導したのはロシアだ。もしこれが、今回のウクライナ侵攻を想定し、NATOへの牽制が狙いだったとすれば、レーガン・ゴルバチョフの合意の精神をはき違えている。