■ロシアは勝者にならず
ウクライナ軍は人数でロシアの侵攻部隊よりはるかに大きく、対戦車ミサイルを国内で量産したうえ、米国製の高性能な対戦車ミサイル「ジャベリン」(射程2.5キロ)などを大量に供与され、計約7800発の対戦車ミサイルを持っていた、と言われる。多分それが一因で、ロシア軍は1カ月でキエフの包囲すら完成しない苦戦だ。ウクライナ側は3月20日までに「ロシア軍の中将1人、少将4人、准将1人が戦死」との情報を流している。将軍は通常後方にいて全体を指揮するから、米軍では昨年8月のアフガニスタン撤退まで20年間の戦いで将官1人が死亡しただけだ。1カ月に6人とはにわかに信じ難いが、ウクライナ側は戦死した将軍の氏名、職務まで公表したから嘘とも言い切れない。それほどの激戦なら「ロシア軍にはすでに数千人の死者が出ている」との西側の推計も当たっているかもしれない。
仮に今後ロシア軍がキエフなどを制圧し、親露派政権を擁立しても、ウクライナ人が抗戦意志を保つ限りロシアは勝者にならない。隣接するポーランド、ルーマニアなどは本来反露的で、NATO加盟国だから、ゲリラに拠点を与えるか黙認し、そこで休んだゲリラは米国等から送られる兵器、弾薬を得て再び出撃する公算が大だ。100万人のウクライナ兵の1割でもゲリラになればゲリラ討伐には数倍の兵力が必要だ。今日のロシア陸軍は28万人(陸上自衛隊の2倍)に縮小され、空挺隊、海兵隊を入れても地上戦兵力は36万人だ。そのすべてを日本の1.6倍の面積、4千万人以上の人口があるウクライナに投入してもゲリラ全滅は困難だろう。
ロシアには300万人の予備役兵がいるが、予備役召集は一大事、ロシア国民にプーチン政権の大失態を示すことになる。米国はベトナム、イラク、アフガニスタンで失敗しても、地球の裏側の自国に軍が帰ればそれで一応済んだがロシアはそうではない。GDPでは韓国に次ぐ11位になったロシアが、弱小の属領視していたウクライナに勝てなければプーチン氏の失脚どころではない。大国の地位を失うことになりそうだ。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)
※AERA 2022年4月4日号