凄惨な被害を引き起こしているロシアのウクライナ侵攻。ただ、戦力に圧倒的差があると思われたロシアが苦戦するのは当然なのだ。軍事ジャーナリストの田岡俊次氏が読み解く。AERA 2022年4月4日号の記事を紹介する。
【写真】窓ガラスもつぎはぎ状態…ロシアからの攻撃を受けたハリコフの病院で治療を受ける人たち
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ウクライナ侵攻開始から1カ月、ロシア軍は苦戦を重ねてきた。ベラルーシとの国境から約200キロの首都キエフ突入どころか、同市を包囲して兵糧攻めにし降伏させることもできずにいる。ロシア部隊はキエフの北、東、西の3方に布陣、市内を砲撃しているが、他地域との交通にもっとも重要な南側面を占領できず、細々ながら食糧などの物資の搬入が続く。3月15日にはポーランド、チェコ、スロベニアの3国首相が列車でキエフに入りゼレンスキー大統領と会談したのは包囲ができていないことを示している。
人口300万人に近いキエフにロシア軍が突入し市街戦になれば、双方の軍、民間人に万単位の死傷者が出るから、意図的に逃げ道を開ける戦略もありうるが、それでは兵糧攻めは当然長引く。またロシアとの国境からわずか50キロ、ウクライナ第2の都市ハリコフ(人口約140万人)は包囲されたが1カ月たっても陥落しないことを考えれば、ロシア軍はウクライナ軍に進撃を阻止され、キエフ包囲網は完成しえていないと思われる。
侵攻したロシア軍は約15万人とされ、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスクの親露派民兵約4万人が協力し計約19万人。一方のウクライナ陸軍は14万5千人に別組織の空挺隊、海兵隊計1万人を加え地上戦兵力は約15万5千人だが、ウクライナは徴兵制を8年前に復活したから、18カ月の兵役で訓練済み予備役兵が90万人もいて計105万人。ロシア側の5.5倍の兵力だ。
■ロケット技術にたける
予備役兵を動員すれば人員に不足はないのにゼレンスキー氏は18歳から60歳の男性の避難を禁じ、第2次世界大戦末期の日本軍が本土決戦での「1億玉砕」を唱えて女性に竹槍訓練をさせたように、今日の戦車に対し、まず効果がない火炎瓶を市民にも投げさせようとするなどは芝居がかっていた。