悪い意味で存在感を増すロシアのプーチン大統領に対し、影が薄い米国のバイデン大統領。米国が「警察国家」役を返上し、ウクライナへの派兵のカードを切れない理由がある。AERA 2022年4月4日号の記事から紹介する。
【写真】プーチン氏の顔写真とともに「間抜けなプーチン」の文字が書かれた火炎瓶
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「米国は、国際コミュニティーのリーダーだ。ウクライナの子どもや市民の苦しみを理解している」
バイデン米大統領は3月24日(現地時間)、ベルギーの首都ブリュッセルで開かれた主要7カ国(G7)緊急首脳会議直後の記者会見でこう語った。「当たり前だ、わかっているだろう」というような調子で、顔見知りの記者団に強調。翌日には、ウクライナからの最多の難民を受け入れているポーランド訪問を計画。G7の首脳が、戦場となっているウクライナに極めて近い現場に初めて乗り込むことになり、国際メディアの注目を浴びるのを意識した計画だ。
ところが、バイデン政権は2021年12月8日の時点で、ロシアがウクライナを「侵略」した場合でも派兵しない意向を早々と表明している。同年8月、アフガニスタンの米駐留部隊の撤退にあたり、イスラム主義勢力タリバンが首都カブールを占拠。空港に避難しようとする市民が殺到し、航空機にしがみついた市民が機体から落ちるという惨状を引き起こした。米市民にとってはトラウマとなっている外交的失態だ。その記憶も新たな中で、ウクライナへの派兵を持ち出せば、バイデン政権にとって大打撃となる。
米国が早急に「警察国家」役を返上し、ウクライナを攻めるロシアのプーチン大統領が対峙するのは、西側諸国首脳や北大西洋条約機構(NATO)などと役者が多い。単独でウクライナ侵攻に突き進むプーチンが嫌でも目立ち、対抗しうるはずの軍事大国米国のバイデン大統領の影は完全に薄れた。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)
※AERA 2022年4月4日号より抜粋