
俳優・山口祐一郎が東京・日比谷のシアタークリエで公演を行う。コロナ禍で試行錯誤するなかで、改めて得た気付きがあるという。AERA 2022年5月23日号から。
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新型コロナウイルスは生き方を変えた。コロナ禍でミュージカル公演が軒並み中止となった2020年秋のこと。「自分たちの日常がなくなってしまう」と、ミュージカルの帝王・山口祐一郎(65)は、演劇の殿堂・帝国劇場で初めてのトークショー「My Story~素敵な仲間たち」に出演した。
「どういう形で皆様に出会う機会があるのか、スタッフの皆さんで検討する中、トークショーならコロナ対策に関しても対応しやすいのではないか、と実現しました。とは言っても、トークショーで帝劇が満席になって、大勢の方に配信でも観てもらえるなんて、自分でも思っておらず驚きました」
■普段以上のやりとり
ミュージカル公演では数カ月どころか年単位で準備を進める。稽古場で流した汗が本番で結実する。だが、トークショーでは稽古場での時間がないだけに、
「稽古分の汗が本番中の冷や汗にならないか心配していましたが(笑)、お客さまと大変楽しく過ごすことができました」
このトークショーでの気付きは大きかった。マスクをしていても、皮膚感覚で観客の熱を感じた。五感は置かれた環境によって順応すると知った。マスクで顔の動きもわからないかと思っていたら大間違い。1千人以上の人が白いマスクをしていたが、表情がはっきりわかった。
「コロナ前とは違いますが、普段以上のキャッチボールが客席とできたような気がします。新しい発見でした」
コロナ禍を通じ、改めて自身が恵まれた環境で演じてきたことにも気付かされた。
例えば公演後、欧州や米国からやってきた演出家たちは、静かに見ている日本の観客が気になるらしい。「何か大きなミステイクがあったのではないか。何があったか本当のことを教えてくれ」と尋ねられた。そう聞く彼らに、「この小さな島国の日本では、こうやって感情を表現するんです。能や狂言をぜひご覧になってください」と答えた。