
東京パラリンピックは8月26日、馬術の個人(グレード4)があり、元日本中央競馬会(JRA)旗手の高嶋活士(28)が出場する。AERA2020年3月2日号のインタビューを紹介する(肩書、年齢は当時)。
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練習開始からしばらく経った頃、馬が生き生きと跳ねるようなしぐさを見せた。それを合図に、4拍子を刻む「常歩(なみあし)」から2拍子の「速歩(はやあし)」を経て、3拍子の「駈歩(かけあし)」へ。高嶋活士と愛馬が一体となって心地よいリズムを馬場に響かせた。
「騎手の役割は馬を輝かせることです。お互いの気持ちが通うと本当にうれしい」
日本中央競馬会(JRA)の騎手だった20歳のとき、レース中に落馬し右半身にまひが残った。まだ勝ち星はなかったが、競馬学校の模擬レースでは同期の中で一番勝利数が多かった高嶋は、復帰して勝つことを目標にリハビリを重ねた。だが、まひのある右手では気性の荒い競走馬を操れなかった。パラ馬術へ転向すると、体に染みついた巧みな重心移動を武器に、日本のトップ選手に躍り出た。
JRA時代は厩務員に任せていた馬の世話を、今は自分で行う。乗馬前は蹄に詰まった土を丁寧に取り除き、足をなでるようにマッサージし、バンデージを巻く。「馬は些細な傷でも、雑菌が入ると命取りになるんです。この子は特に皮膚が弱いんで」。途中、愛馬のケネディがペロッと舌を出すと、高嶋は氷砂糖を一粒取り出し、口元へ持っていった。氷砂糖を忘れると機嫌が悪くなるのだという。
「乗馬の前後のこうした時間は、互いの信頼感が生まれる大事な時間ですね」
絆を紡ぐ中で、愛馬はまひのある右手右足で出すわずかな指示も感じ取ってくれるようになった。高嶋は心強い相棒とともに、東京の舞台で躍動する。
(編集部・深澤友紀)
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■馬術
人と馬が一体となって演技し、その正確性や美しさを競う採点競技で、「馬のフィギュアスケート」とも言われる。手足に障害がある人や視覚障害者が参加し、規定演技の個人戦、チーム戦と、自分で選んだ曲に合わせて演技を組み立てるフリースタイルの3種目があり、障害の程度によって5クラスある。障害に合わせ、手綱や鞍などを改良でき、道具を駆使する姿や、人馬一体の優雅な動きは圧巻。
※AERA2020年3月2日号に掲載

