都市の街並みの中にある、現象としての透明性
都市はさまざまな社会空間の重なり合いによって成り立っている。それが明確に意識されるようになったのはイギリスの建築家、コーリン・ロウが1963年に発表した論文「透明性 実と虚」によってだ。ロウは透明な概念としての空間(Adobe Photoshopのレイヤーを思い浮かべてほしい)の役割について言及し、建築だけでなく、都市の設計に大きな影響を与えた。
「都市の街並みの中に、そんな現象としての透明性みたいなものがある。そこにカメラを向けた」と、関根さんは説明する。
かつて、東京の街は運河の水運によって成り立っていた。やがて、それが鉄道や道路に置き換わり、地下や空中にも網の目のように広がっていった。たくさんのビルも空に向かって次々と伸びていった。その谷間に、昭和の雰囲気を感じさせる住宅や商店がひっそりと残されている。そんな「都市を形づくる重層性」を感じさせる風景が、街を丹念に歩いていると、歴史の地層のように現れる。
手前にあった建物が取り壊され、ぽっかりと空き地ができ、そこからさまざまなものがむき出しになった古い建物の背面があらわになり、その向こうには近代的なビルが顔をのぞかせている。関根さんに言わせると、そんな風景は「自然にできたもの」であり、「開いた空間の向こうに異質なものがぶつかりあって存在している」。
人が入り込むとノイズになる
「ちなみに、そういう風景って、歩けば見つかるものですか?」と、たずねると、「いや、そう簡単には見つからないです。だから、何時間も歩き回って、たまに面白いのが見つかると、おっ、やった、という感じですね。そこでシャッターを切るわけですけど、後で見返しても面白いのは本当にごくわずかで、1000枚撮って作品になるのは1枚くらい」
撮影では、カメラの水準器機能を使い、画面の縁と建物の垂直線がきちんとそろうように気を配る。その際、微妙な撮影位置が重要となるので、「撮って、一歩動いて、また撮って」という作業を繰り返す。さらにその周辺をぐるりと歩いて、さらによい撮影ポイントがないか探し回る。
「都市の異質なレイヤーの重なり合いみたいなものに視点が向くように」、人はなるべく写らないようにしている。「人が入り込むとそれがノイズになるような気がします」。
できるだけ客観的に写したいので、撮影の光はドラマチックな逆光ではなく、ふつうの順光、できれば光がよく回る曇天がいいそうだ。「感傷的な感じ見えるのは嫌なので」、夕暮れどきのあかね色に染まった風景や、夜間の街灯に照らされた風景の色味は後で調整してニュートラルな白色光で撮影したように見せている。
条件をできるだけそろえて、さまざまな場所で写した都市の表情を平等に見せようとしているわけだが、「そんなに真面目くさった感じではなく、ユーモラスな部分があると思っています。真面目に写した結果が面白いみたいな」。