安倍内閣の支持率がついに30%を切った。朝日新聞の調査(5月23・24日)では29%。毎日新聞の調査(5月23日)では27%。

 このタイミングで読むのにちょうどよさそうなのが田中信一郎『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』である。挑発的なタイトルに反して、じつはかなり具体的な政策提言の書。今後の日本にとって特に重要なのは人口減少。すべての政策はここを出発点に考えるべきだと著者はいうのだ。なぜかというと……。

 2008年をピークに日本の人口は減少に転じた。この年の人口は1億2808万人。毎年60万人ずつ減少し、2040年以降は100万人ずつ減少する見込み。これは避けられない現実だ。

 ところが、現在の経済と社会のシステムは人口増加を大前提にしているため、少子化対策はことごとく的外れ。子どもの数が増えない最大の原因は非正規雇用が増加し、実質賃金が低く抑えられてきたからだ。<つまり、実質賃金の増加を実現できなかったことが、個人消費を低迷させて経済の足を引っ張り、生活を苦しくして少子化を助長していたのです>

 経済政策も同じ。人口減少を前提にすれば、内需は縮小し、生産活動も縮小する。ところが景気対策を中心に回るなど、経済政策は高度成長期の感覚のまま。

 ここに政治を動かす制度の問題が加わる。大臣は飾り物だし、国会は内閣を制御できない仕組みだし、選挙制度は業界団体や組合などの中間団体が軸で既得権益のしがらみから抜け出せない。<要するに、人口増加を前提としてきたすべての政策について、人口減少を前提とするものへと転換することが必要になっています>

 自民党ではこれらを解決するのは無理。だから政権交代が必要だって理屈になる。人口減少時代の指針になるのは個人の幸せを重視する思想を持った現行憲法だ、という提言がユニーク。<つまり、時代が求めているのは、憲法を具現化する経済政策なのです>。そうだよね。憲法は絵に描いたじゃないのよね。道は険しそうだけど。

週刊朝日  2020年6月26日号