ジョン・レノンじゃないけれど、ときどき想像してみる。もしもトランプが大統領になっていなかったら、と(だって、得票数ではヒラリー・クリントンのほうが300万票近く多かったのだから)。そして、トランプによって破壊されたものがどんなに大きいかをあらためて確認する。
ミチコ・カクタニ『真実の終わり』は、いまアメリカで起きていることについて、民主主義の危機という視点でとらえた評論集である。著者は米国を代表する文芸評論家。一昨年に退社するまで30年以上にわたり、ニューヨーク・タイムズ紙で書評を書いてきた。その辛辣な文章と確かな目は、多くの作家と読書家から尊敬を集めた。
本書もまた激辛だ。ハンナ・アーレントやジョージ・オーウェルからP・K・ディックやトマス・ピンチョンにいたるまで、さまざまな文献を引きながら、現代アメリカの深部を明るみに出していく。
トランプが──彼個人というよりも、彼を大統領に選んだアメリカ社会が──もたらしたものは、見かけよりもはるかに深刻だ。移民の排斥や白人至上主義や、中国政府とのチキンレースは、もちろんそれはそれとして大問題だが、もっと大きな問題、それは客観的事実が重んじられなくなってしまったことだ。事実を前提にしない議論に、なんの意味があるというのか。
遠因はポストモダン思想の流行にある、とカクタニは指摘する。ポストモダン思想が価値の相対化とニヒリズムを蔓延させ、トランプを準備したのだ、と。鋭い。
日本にあてはめるなら、アベ政治を準備したのは、ニューアカだったのか。
※週刊朝日 2019年9月27日号
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