であればこそ、その実情を「本土」に訴えていく必要がある。

 だが多嘉山さんは「いまは県外の人に期待するのはやめた」と話す。

 多嘉山さんは辺野古新基地建設で揺れる名護市で音楽教室を営みながら、基地問題などを解説するユーチューバーとしても活動してきた。平易な言葉を用いて、新基地建設の矛盾を訴える多嘉山さんの番組は、県内外に少なくはないファンを持つ。

 そんな多嘉山さんが「期待」を失うきっかけとなったあの日を、私は思い出す。2019年6月。多嘉山さんはビデオカメラを抱えて九州に飛んだ。

「あなたの街で普天間基地を引き取りませんか?」

 各所でそう訴えたのだ。

 私も多嘉山さんの後を追った。基地の「引き取り」を訴える沖縄の青年に、「本土」の側がどのように応答するのか、興味と関心があった。

 当時、多嘉山さんは私の取材にこう答えている。

「普天間基地の移設先は辺野古である理由がない。たとえば、すでに滑走路延長の計画が進んでいる航空自衛隊の築城基地(福岡県)や新田原基地(宮崎県)などを移設先とすれば工費も安く済む。基地の必要性を認めているのであれば、普天間基地を丸ごと引き取ってくれてもよいはずです」

 多嘉山さんは九州各地の駅頭に立ち、こうした「代案」を訴えた。

 だが、正直、関心を寄せる人はそれほど多くはなかった。「基地は沖縄でいいじゃないか」と反論する人がいた。「冗談じゃない」と怒りの表情を見せる人がいた。もちろん賛意を示す人がいなかったわけではない。「応分の負担は日本で暮らす者として当然だ」と話す50代の男性は、多嘉山さんの話にじっと耳を傾けていた。

 興味深い反応もあった。「基地は大歓迎」と話していた若い男性は、これまで沖縄で問題となってきた米軍がらみの事故や事件について多嘉山さんから説明を受けると、途端に態度を変えた。

「絶対反対。やっぱり基地はいらない」

 こうした反応に多嘉山さんは「予想していた通り」としながら、沖縄に戻るまで複雑な表情を崩そうとはしなかった。

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