
津田:僕は結構屈折した中高時代を過ごしていたんです。生きることへの違和感というのかな……。わかりやすくいうと、世の中でめちゃくちゃ流行っているものが微塵も良いと思えなくて息苦しい、みたいな。あるいは、自分が良いと思うものはみんなに受け入れられるのだろうか?とか。
百田:そうだったんですね。だから「いっそ自分で作っちゃおう」となったんですか?
津田:いや、そこまで一足飛びにはいかなかった。でも世の中にはアウトローな表現者がいて、そういう人たちが堂々と面白いものを作っているという事実にすごく救われたんです。
百田:当時、津田さんが影響を受けた監督って、例えば誰なんでしょうか?
津田:高校の時にミニシアターができて、そこでベルトラン・タヴェルニエ監督の「田舎の日曜日」(1985年公開)という映画を観たんです。フランスの田舎に画家のおじいちゃんと家政婦が二人で住んでいて、ある日曜日、その家に息子夫婦と孫が遊びに来る。で、娘も加わって賑やかに過ごすんですけど、最後には子どもも孫もみんな帰っていって、おじいちゃんは自分のアトリエで絵を描き始める──それで終わり。何も起きないんです。だけど、それまで名画座で観てきたどの映画とも色や空気感が明らかに違っていて、「なんだ? この感じは」ってものすごく脳裏に焼き付いて……。世の中にはこんな映画もあるのか!って感動しました。
百田:へぇ〜。全く何も起きないんですか?
津田:いや、本当は起きてるんですよ。起きてるんだけど、表面上はあまりよくわからない。
百田:犯人はおじいちゃんだった!ではないってことですね。
津田:そう(笑)。おじいちゃんを裏切って刺した、とかでもない。離れて暮らす家族が遊びに来て、帰って、でもすごい染みる、みたいな。小津安二郎の「東京物語」(53年公開)のようなテイストですね。あとは、ジム・ジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(86年公開)も何も起きない映画なんですけど、めっちゃかっこよかった。百田さんはそういう映画はあまり観ないですか?
百田:あまり観ないですね。私は映画にハッピーエンドを求めちゃうところがあって。「うまくいかないな」と思うことがあった時とかに「よし! ハッピーエンドの映画を観よう」みたいな感じで選ぶことが多いです。
津田:それも映画の大きな役割だと思います。だけど僕は、ささやかなハッピーエンドが好きなんですよね。なんていうか、大上段にハッピーエンドっていうものを信じにくいのかもしれない、自分の性格的に。「人生そんなにうまくはいかないよ」とか「それは現実逃避にしかなってない」とか、どうしても余計なことを考えてしまう。とくに若い頃は“アンチエンタメ”だったんです。ご都合主義のエンターテインメントを憎んでいて、ミニシアターにどんどんハマっていって……。
百田:そんな津田さんが今、エンタメのど真ん中にいるっていうのが、なんかすごいですよね。
津田:たしかに(笑)。人生って何が起きるかわからないですね。
(構成/AERA編集部・藤井直樹)
※AERA 2025年8月25日号
※この対談の続きは8月25日発売の「AERA 9月1日号」に掲載します。
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