春が立つと書いて「立春」。旧暦ではこの日が一年の始めとされ、八十八夜や土用など、雑節の基準日にもなっています。東風が吹き、氷が薄くなり、鴬の初音も聞こえるころ。本日は穏やかな晴れ予報の地域も多く、暖かい陽ざしに春の訪れを感じる一日となりそうです。
この記事の写真をすべて見る春の気立つをもってなり。冬から春へ、余寒の候でもあります
暦のうえでは、今日から春。まさに春到来の予兆が感じられるような二十四節気「立春」を迎えました。暦便覧には「春の気立つをもってなり」と記され、天文学的には太陽が黄経315度の点を通過するとき。旧暦の新年もちょうどこのころで、立春に最も近い新月の日となります。
これから日ごとに気温が上昇し、陽光のまばゆさが増し、芽吹きの季節を迎えますが、まだまだ寒い日も多く、東京でも2月、3月に雪が降ることもめずらしくありませんね。
「冴返る」という季語があるように、暖かいと思った数日後には一転して寒波に包まれ、強く冷え込む日もあったりで、油断できません。
そんな立春後の寒さのことを「余寒(よかん)」といい、夏の「残暑」と対になる言葉。立春後の再三冷え込む折、「余寒の候」「余寒お見舞い申し上げます」と記し、お便りを出してみても素敵です。
2月8日は、浅草浅草寺などで針供養会が行われます
日本の年中行事のなかで、独特だなと思うもののひとつに「針供養」があります。むかしは針供養の日は一日針仕事を休んで、針を床の間に飾り、折れた針を集めて淡島神社へおさめたものだそうです。
(もともとは、和歌山にある淡島神社で漁師たちが、釣り針の折れたものを海底に沈め海神を慰める習俗からはじまったとか)
そんな家庭の針仕事はもとより、仕立て屋や足袋屋、洋裁学校など針を扱う業種の人々も針を休め、針箱の掃除をしたと聞きます。
2月8日は、浅草浅草寺にある淡島堂などで行われる針供養会の日。三宝に乗せられた豆腐に針を刺し、人々が祈りと感謝を捧げる様子が見られます。
以前一度だけ体験したのが、細い細い絹糸をより合わせ、一針ひと針さしていく日本刺繍。
今や職人も殆どいなくなった手作りの希少な針を使っていて、繊細な繍いはこれでないと、というお話しを聞きました。このように針を日々使う人たちにとって、使い慣れた針は、とても大切なもの。手で縫うことがあたり前だったむかしの名残と、手仕事の大切さがひしひしと感じられます。
早春にまず咲くからこの名が?…マンサクの花も咲くころ
立春を告げる花のひとつにマンサクがあります。
この名の由来には諸説あり、梅に先駆けて山々にまず一番に咲くことから、「まず咲く」が転じて「マンサク」となったと言われたり。かの植物学者・牧野富太郎によると、金色の花が枝いっぱいに咲く姿が「豊年満作」を連想させるから、マンサクとなったという説も。早春を代表する花木のひとつとして、全国各地の庭木として広く親しまれています。
黄色く、か細い花びらは間近で見ると縮れていて、まるで春の到来を喜んで踊っているような。西洋では「女魔法使い」「鬼婆」などの意味の名で呼ばれているというから、ずいぶん印象が変わってきます。けれども、黄金色の花をたくさんつけた枝を見れば、稲穂の実りを今年も願いたいという気持ちから、やはり、豊年満作のマンサクなのだなと思えてきます。
節分の翌日である立春。かつて後漢時代の中国で行われていた行事では、大勢の官僚たちが青い衣をまとい、都洛陽の東の郊外へおもむき春を迎えたとだとか。
春を表す方角が東、色が青(青春の語源でもあります)から生まれたのであろうこの壮麗な習わしに思いを馳せつつ、今日は青い服を選んで外出してみましょうか。暖かい陽差しに誘われ散策すれば、鴬の初音が聴こえるかもしれません。