
ローマ教皇が急逝した。ローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)は新たな教皇を決定するためのコンクラーベを取り仕切ることに。リベラル派と敵対する強固な伝統主義者に分かれた有力候補者を前に投票がはじまる。が、あるスキャンダルが発覚し──!? 第97回米アカデミー賞脚色賞受賞の「教皇選挙」。エドワード・ベルガー監督に本作の見どころを聞いた。
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私はカトリック教徒ではなく、コンクラーベについては一般的な知識しかありませんでした。「世界中の枢機卿が集まり密室で行われて、決まったら白い煙が立つ」程度です。今回はロバート・ハリスによる原作と本作の脚本を読んで、いま語るべき要素があると感じました。世界で最も古い部類に入り、伝統や因習を崩さず家父長制の最たるものであるカトリック教会という組織にイザベラ・ロッセリーニ演じるシスターに代表される「女性的な要素」がひびを入れていく様を描いているからです。これは教会にとどまらず、どんな組織にも言えることだと思います。
もうひとつ惹かれた点はコンクラーベが政治劇である点です。リベラル派と保守派、極右に分かれた枢機卿たちの言い争いはまさに政治世界での党派の争いのようです。映画とはやはりいまの世相を反映したものでなければならないと私は考えます。この映画は私の政治的なコメントともいえます。
バチカンでは撮影ができなかったので、あちこちで撮影した素材をパズルのように組み立てて閉ざされた空間に見せる作業に苦労しました。実際の選挙中、枢機卿たちは半径1キロメートルほどの空間しか行き来しないのですから!

本作はフィクションですが、おそらく冒頭で急逝する教皇は現フランシスコ教皇がインスピレーションのもとになっていると思います。彼は進歩的でさまざまな改革を行ってきました。古い因習にしがみつく組織や構造はいずれ現代社会において重要性をなくしていくはずです。そして凝り固まったどんな古い組織にも、変化の兆しが見えることがある。未来に向かって我々は物事を変化させることが可能なのだということを語りたかった。本作はその意味で希望を携えた作品だと思っています。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2025年3月24日号

