姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 日米首脳会談の内容について政府筋は「大成功」、メディアも軒並み「評価できる」という結果で、予測不能の事態は避けられ、良好な関係のスタートという点でも概ね合格点ということになっているようです。

 会談では、自らもプロテスタントである石破首相が、昨年の銃撃の際のトランプ大統領の写真を手に、「大統領が、神様から選ばれたと確信したに違いないと思った」と話しました。また、石破首相の印象をトランプ大統領は、「とても強い男だ」と話すなど、互いを褒め合う姿が印象的でした。

 日本側は対米投資の1兆ドル(約150兆円)規模への引き上げを伝えており、日本が米国からLNG(液化天然ガス)などの輸入を拡大することで合意するなど、対外赤字を懸念するトランプ大統領のお眼鏡に適ったのでしょう。しかし、首脳会談後に鉄鋼・アルミニウム関税で日本も例外ではないことが明らかになり、懸念したことが露呈しました。

 今回の会談で分かったのは、米国、日本、そして世界からの「見え方」です。確かに米国だけで見れば「合格点」かもしれません。しかし、日本国内の視点からは、先の150兆円を国内にまわせば、デフレ脱却と内需主導型の成長に貢献できるという見方もあります。そして、世界からの見え方はどうでしょう。日米首脳会談の直前まで、ICC(国際刑事裁判所)から逮捕状が出ているイスラエルのネタニヤフ首相との会談が行われていました。日本はトランプ就任後、2番目に行われた首脳会談を肯定的に評価しましたが、世界は少し冷めて見ているようです。

 DEI(多様性・公平性・包括性)を否定し、かつてのWASP(アングロサクソン系白人プロテスタント)の文化に回帰しようとし、まるで米国がアパルトヘイト時代の巨大な南アになろうとしている時に、日本があたかも名誉白人の位置をもらって喜んでいるように見えたとしたら、世界の流れとはかけ離れていると言わざるを得ません。こうした意味で、急がず、焦らず、時間をかけてから首脳会談に挑み、もっと石破色を出し、日本が「トランピズム」とは一線を画す国であることを示してほしかったと思います。

AERA 2025年2月24日号

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