「直接鼓膜を震わせ、目を見て歌を届けたい」と七海うららさん。ライブでは生身の姿でステージに立つ。最新アルバム「Kiss and Cry」には、「ルーツでもあるスケートに音楽の世界から関わりたい」という思いも込めた(avex提供)
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 YouTubeなどのプラットフォーム上で、2Dや3Dのアバターを使って動画を配信する「VTuber」。2016年の誕生以来、右肩上がりで市場を拡大し、いまやエンタメ界をリードする存在になりつつある。AERA 2024年12月16日号より。

フジテレビの「世にも奇妙な物語」に出演した「七海うらら」はコチラ

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 腰まで伸ばしたロングヘアに大きなブルーの瞳。制服風の衣装に身を包んだ女性が画面に映るや、少し低い声で切り出した。

「あ、あ、あ……」

「みなさーん! おはうらー!」

 そうあいさつしたのは、七海(ななみ)うららさん。チャット欄に投稿されたコメントを読み上げ、視聴者とコミュニケーションをとっていく。ユーチューブのチャンネル登録者数47万人突破を目指した“耐久配信”のワンシーンだ。

 アーティストとして音楽活動をする七海さんだが、かつて会社員として働いていたこともある。がんの闘病をきっかけに、「一度きりの人生、好きなことをしよう」と思い、ユーチューブにカバー動画をアップするようになった。あくまで趣味の延長で、顔出しもしていなかった。

 だが、その歌声に魅了され、少しずつファンが増えていく。2022年には、会社を辞めて音楽活動に専念。翌年にはメジャーデビューを果たした。

キャラと連動して表現

 今もオンライン上での顔出しはせず、バーチャルキャラクターの姿でファンに音楽を届けている。一方ライブでは生身の姿でもステージに立ち、ファンと対面で交流する。そんな自身を七海さんは「パラレルシンガー」とカテゴライズする。

「リアルとバーチャルを両立するスタイルは、私自身の表現が増えたに過ぎないと考えています。独自の造語なので浸透には時間がかかると思いますが、知ってくださった方には魅力が伝わっているので、その輪が広がればうれしいです」

 昨秋にはバーチャルアイドル役としてフジテレビ「世にも奇妙な物語」に出演。Xのトレンドにもランクインし、話題になった。今年11月には、初のフルアルバム「Kiss and Cry」をリリースするなど、活動の幅は二次元を超えて拡大中だ。

「バーチャルユーチューバー」という言葉が生まれたのは、16年12月のこと。「キズナアイ」を名乗るキャラクターが投稿した動画が火付け役となり、注目を集めた。キズナアイさんのチャンネル登録者数は1年で100万人を突破し、翌18年には歌手の小林幸子さんとも共演。ネットの世界に詳しくない一般層にも広く知られる存在になり、「バーチャルユーチューバー/VTuber」は同年のネット流行語大賞で金賞を受賞した。

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内閣府からも熱視線