共に世界的に高い評価を受けるホラー漫画家の伊藤潤二さんとゲームクリエイターの小島秀夫さん。60歳を迎えた二人が対談した。AERA 2024年6月10日号より。
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小島:僕も伊藤さんも同い年で、昨年60になった。同世代だから、観てきたものもいろいろ共通している部分はありますよね。
伊藤:ええ、漫画、アニメ、特撮、SF、それから映画。1960年代は今も残る作品が一気に花開いた時代でもありますね。
小島:僕は中学生の頃に安部公房を知って衝撃を受けました。特に刺激を受けたのは『砂の女』です。昆虫採集のために砂丘を訪れた男が、穴の底で砂に埋もれかけた民家に閉じ込められて、そこで女と出会う話です。
伊藤:ええ、私も昔読んだ記憶があります。何と言うか、物語にシュルレアリスム的な味わいがありますよね。
安部公房の手法に驚き
小島:安部公房が書くSFって、小松左京とか平井和正のようなハードSFとは違って、文芸寄りのSF。外側はSF的な構造を用いているんだけど、本質は人間の業を描いている感じがするんです。そういうメッセージを直接的に書かれていると僕は恥ずかしくなっちゃうんだけど、公房のように時空と環境を捻じ曲げてそこに人間的なものを封じ込める手法は、新鮮な驚きがあって感動しましたね。
伊藤:私は最初に読んだ漫画が、楳図かずお先生のホラー漫画「ミイラ先生」でした。それ以来、もう怪奇漫画ばっかり読むようになりまして。特に高校時代に、朝日ソノラマから出ていた「こわい本シリーズ」は傑作揃いでした。その中でも楳図先生の「蝶の墓」は、起承転結がほとんど完璧と言ってもいいくらいの完成度を誇っていて、衝撃を受けましたね。
小島:やっぱり楳図先生の影響は大きいですか?
伊藤:ええ。ほかにも古賀新一先生や日野日出志先生の作品が大好きで、ほとんど読んでいます。漫画以外だと、中学時代にジュニア向けのSF小説にはまりました。特に秋元文庫から出ていた眉村卓先生の「二十四時間の侵入者」は今でも大好きな作品です。