「はい。みんな『兄さんはスゴイスゴイ』って言ってますよ」

「バカにしやがって! そもそもお前たちの身体が弱すぎるんだよ! 鰹に罪はない!」

「違いますよ。兄さんは鰹に愛されてるんですよ。だからあんなにバクバク馬鹿みたいに食べてもあたらなかったんですよ。鰹に兄さんの想いが通じたんですよ。これだけ愛してくれてる人なんだから決してあててはならないと鰹も感じたんでしょうね……。これはスゴイことだと思いますよ」

 鰹を愛していたら、鰹から愛されていたとな。このまま一方通行の愛かと思ってたら、想いが通じて振り向いてもらえたとな。そんな……。無理しなくていいんだよ、鰹。こんなオレも思い切りあててくれたっていいんだよ、鰹。

 ありがとう、鰹。いままでも、そしてこれからもよろしく。大好きです。

 高知に仕事で初めて行った時、打ち上げで私の鰹愛をこのエピソードを交えて熱く語ったら、現地の人がいやーな顔して「あたるような鰹はホントの鰹じゃないき……」と呟いた。

ないき。

 その折、頂いた鰹はやっぱり美味かった。それ以来、毎年高知へうかがっているが、今年もまた10月に高知へ行く予定。尿酸値を下げる薬を携えて、オレは鰹を愛しに行くき。

追記

 鰹の心臓を「チチコ」というのだが、初めて食べた時「チ◯コみたいだなー」と思った。調べてみたら本当に「チ◯コ」と呼ぶ地域もあり、「チ◯コ」に似てるから「チチコ」なのかとも思い、また調べてみてもハッキリと「チ◯コに似てるからチチコと言う」と書かれているものがなかったので、その辺は高知の人もゴニョゴニョと濁すのだろうか。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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