師匠は「暴れん坊将軍」の再放送を観ていた。仕方がないので一緒に観る。「この人、こないだ死んじゃったよな?」「そうですね」「お茶淹れようか?」「いえいえ!」「いーからいーから」と師匠が淹れてくれた。「これ食べな」と饅頭が出てきた。
俺は客か。
「じゃそろそろ、行くか」と支度を始める師匠。
「これ持ってついといで」と着物の入ったカバンを渡された。
「はい」と師匠が切符を買ってくれた。道中、いろいろ話をしてくれたが、緊張で頭に入らない。「メモしときなよ。今日会った人みんな忘れるなよ。なんかしてもらったり、ご馳走になったりしたら次会ったときは必ずお礼を言うんだよ」
「先ほどはお饅頭ご馳走様です」「次会ったときな。俺とお前はさっきからずーっと会ってる」
浅草演芸ホールに着いた。五月上席。ゴールデンウィークは寄席のかきいれ時だ。師匠は昼の12:30上がりだ。どなたかとの日替わり交互出演だった。そしてかなり浅い上がり時間。掛け持ちもなく一軒のみ。50歳のときのうちの師匠はそんなかんじだったのだ。
楽屋に行くといるわいるわ前座さんが5、6人。真打、二つ目、色物さん、お囃子さん、寄席の従業員……。初めての寄席の楽屋はとても居心地が悪かった。師匠は「邪魔にならないとこにいなさい」と言うのだが、どこにいても邪魔になる。
師匠が一席終え着替えた。「じゃお先にー」と言って楽屋を出る師匠の後を急いでついていくと「そばでも食うか」と師匠が行きつけのそば屋に入った。