東京駅の日本橋口。不動産関連企業の男性はこの中の構内で名刺交換のお願いをしていた

 JR東日本に問い合わせると、「認めていません」とのこと。

 では、20代の男性は許可を取っているのだろうか。男性に再度尋ねると、

「取っていません。知らなかったです」

 男性は、渋谷に本社を構える不動産関連の企業に勤務する会社員であり、主に首都圏にある単身者向けのマンション売買を行っているという。

 その男性に話を聞き終えて、筆者がその場から離れると、同僚と思われる男女2人が駆け寄って、その男性と話をしていた。

 こうした“名刺交換”は首都圏以外の地方都市でも同様の事例があるという。

 たとえばJR仙台駅でも、駅の利用者からJR関係者に、

「駅構内で若い男女に名刺交換を持ちかけられた」「構内で研修みたいなことをやっていいのか」「改札を出たらやってきて、断ってもしつこく言ってきた」「JRのキャンペーンかと思った」

 といった問い合わせや苦情が一定数、寄せられているという。

 なぜそこまで名刺交換をするのか。

 東京都の主要駅で名刺交換をしていた経験があるという不動産営業職の男性は、自身の会社の内情について、

「名刺交換が上司の指示の場合もある。課長クラスになるまでは、駅前での名刺交換をし続けなければいけないケースもある」

 と打ち明けた。そして、

「駅構内でやってはいけないと知っていますけど、仕方ないです。ノルマが厳しいので」

 と続けた。

「かわいそうと思って……」

 この男性によると、名刺交換をする際は1人のときもあれば、2~3人でするときもあるといい、上司が少し離れたところから見ていて、たまに指導を受けることもあるという。

 駅の構外で名刺を配るだけならまだ問題はないのかもしれないが、その後にトラブルにつながっているケースもあるようだ。

 国民生活センターに取材すると、そうした名刺交換を受けて、「迷惑」との声が多く届いていた。一部を紹介すると、都内に住む40代の男性は昨年2月、都心部の繁華街で若い男性から、

「私は新人です。どなたか名刺交換をしてください」

 と言われ、かわいそうと思って名刺交換した。

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狙われるのは40〜50代で経済力がありそうな人