小説も歌も荒木さんにとっては同じで手段に過ぎないという。大事なのは人に何を渡せるか。背中を押したり勇気づけたり、人のために存在するものだと考えている。

 Dsquared2(ディースクエアード)というブランドのデニムジャケットを着こなす荒木さんは当時と変わらず夜型だ。朝5時に就寝、昼過ぎに起き出し、気ままにパソコンに向かって小説の原稿を書いた。今は独身だがスタッフや友人が常に家に出入りしているので、原稿を見せて感想をきくこともある。

 最近は寛永通宝のコレクションに熱中している。知人から江戸時代について教えてほしいと言われ、貨幣から勉強するうちに引き込まれた。

 この小説はある日を境に芸能界から一旦姿を消す直前で終わっている。

「小説に書いたのは荒木一郎が始まった時代。この時代にもう一回行けと言われたら行かないね。十二分に自分を生きたから、もう行く必要がないんだよ」

(仲宇佐ゆり)

週刊朝日  2023年1月20日号