コエドブルワリー マネージャー、ビール伝道士 松永将和(まつなが・まさかず)/1998年、帝京大学理工学部バイオサイエンス学科卒業。99年入社、醸造担当。2006年、初の専属営業職に配属。12年、カスタマーコミュニケーションチームリーダー、ビール伝道士に(撮影/写真映像部・東川哲也)

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年1月15日号にはコエドブルワリー マネージャー、ビール伝道士 松永将和さんが登場した。

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 COEDOは、埼玉県川越市の特産品のサツマイモなどを使った独自レシピでつくられる、クラフトビールだ。地域に根差した高品質なビール造りに、こだわりを持つ。

 2012年からビール伝道士として活動。まだビールの面白さに出会っていない人に、目からうろこの話とビール本来の美味しさを知ってもらい、ファンを増やすことを目的にしてきた。売り上げは5倍になった。

 高校生の時、発酵過程を観察する生物の実験で、酵母の力に衝撃を受けた。ミクロサイズの生き物の酵母が発酵により大量のビールを造り出していることを知り、興味を抱いた。大学時代はバイオサイエンスを学び、遺伝子工学研究室で遺伝子組み換え技術に携わった。

 入社して、ドイツのブラウマイスターからビール造りを教わった。技術的なことはもちろん、衛生を保つことの大切さを学んだ。

 1994年から規制緩和で新たに生まれた地ビール市場は、一時のブーム後、非常に厳しい戦いをしいられていた。厳しい経営状況の中、リブランディングされた新ブランドの専属の営業へと配置転換された。

 それまでの7年間、黙々とビールをつくっては発酵タンクや室内の洗浄、殺菌を繰り返していた。それが、いきなり人と話すことが仕事になり、最初は顔の筋肉が固まって口が回らなかった。ビール伝道士という名の営業だが、その役割を深く考えた。

「土産品としての地ビールではなく、食品としてこだわりを訴求した手作りで個性豊かなクラフトビール。そういう新たなビール市場を日本に造る思いで活動してきました」

 展示会やセミナーを主催したり、試飲会でエンドユーザーとのタッチポイントを増やしたりして、地道に伝道してきた。飲食店との商談が成立しても直接取引せず、酒販店に入ってもらうことでクラフトビールの流通を広げるなど、精力的に活動した。

 07年から19年まで開催したCOEDOビール祭りは、最大で約1万人が集まるイベントに成長した。社員の力だけでなく、大変な時に多めに購入してくれた地元川越の酒屋など、多くの人々の愛情に支えられ成長してこられた。

「私たちの役割は、手作り産業で地域に貢献していくことです」

(ライター・米澤伸子)

AERA 2024年1月15日号