英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。
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米共和党大統領候補指名を争う一人であるニッキー・ヘイリーが、TikTokのコンテンツは反ユダヤ主義とハマス支持を促進しているとして同アプリを禁止すべきと主張した。また、別の共和党議員も、若者を洗脳する「デジタルの麻薬」だと警告し、英テレグラフ紙もTikTokの脅威がリアルになってきたと懸念する記事を書いている。
TikTokは、「どちらかの味方をする」ことはしておらず、アルゴリズムによってユーザーの好みに合わせたコンテンツが表示され、ニュースフィードがパーソナライズされているだけだと説明している。
コンテンツは様々だ。ガザの地図を解説する情報もあれば、扇情的シーンを切り取ったもの、明らかなプロパガンダもある。TikTokでは、パレスチナ支持の内容のほうがはるかに需要が高いそうだ。
ほんの数年前まで「ティーンがダンス動画を見るSNS」として知られていたTikTokは、いまや世界で最もダウンロードされているアプリ(英国でも1位)だ。「Z世代のグーグル」とも呼ばれている。レストラン情報からニュースまで、10代の多くはグーグルではなく、TikTokやインスタグラムで検索する。CNNのTikTokアカウントのフォロワー数は300万を超えたし、BBCニュースのアカウントも260万を超えた。戦争の動画にハートマークで関心が示されるのには違和感があるが、イスラエルのガザ侵攻に関する動画への「いいね」数は多い。
アルゴリズムで繋がる短い動画を見て世界情勢を知ることの危険性は言うまでもない。だが、若者たちの多くは主流メディアを見ないし、ネット配信のニュース記事さえ読んでいない。時代の流れといえばそうだが、大人たちの報道は信じられない、見る必要はないと思われているからそうなったとも言える。
自分と違う意見を持つ若者たちを「洗脳された」と決めつけ、アプリ禁止を叫ぶ行為は、砂山に頭を突っ込んで周囲を見ないようにしているダチョウを連想させる。世界が突如として真っ暗になったように思えるのは、砂の中に頭を突っ込んでいるからかもしれない。
※AERA 2024年1月15日号