英国では、学生の住宅費用の平均が、国の学生ローンの限度額をすでに超えているという。2022年に発表されたスコットランドの調査によれば、学生の12%が、入学して以降、定住する家がない時期を経験したことがあると答えている。英国の権利擁護団体、ユニバーシティーズUKの元代表は、トップ大学から入学をオファーされた学生たちが、住宅不足のために、自宅から近い大学を選ばねばならない状況になってしまうと警告している。
「家は人が住む場所で、貯金箱ではない」という言葉が流行したのは、ロンドン五輪の前後に首都のジェントリフィケーションが進んだ時だった。住宅を「投機対象」としてしか認識できない資本家たちのせいで、低所得の人々だけでなく、学生たちまで住む家を失っている。
もし英政府に、次の世代の能力を育て、そのポテンシャルをフルに発揮させようという賢明さがあるなら、早急に投資家たちの獰猛(どうもう)な不動産投機を規制する必要がある。家は株券ではない。家がなければ人は生活できないし、次の世代を担う人々も育たないのだ。
ブレイディみかこ(Brady Mikako)/1965年福岡県生まれ。作家、コラムニスト。96年からイギリス・ブライトンに在住。著書に『子どもたちの階級闘争』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』『他者の靴を履く』『両手にトカレフ』『オンガクハ、セイジデアル』など
※AERA 2023年9月18日号