作家、コラムニスト/ブレイディみかこ
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 英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。

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 英国では、9月に新学年が始まる。悲喜こもごもの大学入学資格試験の夏を終え、若者たちが大学に入学する季節だ。自宅を離れる学生たちはそれでなくとも不安を抱えている。が、今や彼らの最大の悩みは、大学に関するものでも、学問に関するものでもないらしい。「住まい」だというのである。

 学生寮、シェアハウス、ワンルームの狭い部屋など、一昔前までは、大学生が安く部屋を借りる手段があった。ところが、大都市の不動産を買い漁(あさ)って住宅価格や家賃を高騰させた投資家や企業が、次なる投資対象として大学のある地域に狙いを定めたため、学生たちが払える手頃な家賃の住居が不足しているというのだ。投資家や企業による住宅の買い漁りは、ジェントリフィケーション(都市の高級化)を引き起こし、もとから住んでいた低所得の人々の追い出しに繋がるとして以前から批判されてきた。この現象が、今度は大学のある地域にも飛び火し、学生街に当の学生たちが住めなくなるという本末転倒な状況を招いているというのだ。

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