撮影/写真映像部・和仁貢介

「夫の晩酌に付き合って飲むけれど、小さいグラス1杯で十分。でも、夫のロング缶からわけてもらうのはイヤで自分用の1本がほしいんです」(40代女性)

 用途の広さも135ミリ缶の特徴だそう。宮田さんは続ける。

「弊社の社員では普段はレギュラー缶やロング缶を飲むけれど、『もう一口!』のために用意している者もいます。適正飲酒の流れもあり、無理に大きな缶ではなく小さなサイズで、というニーズは増えると考えています。自分で飲む以外では、お彼岸の時期はお供え用の需要があり、仏花などと並べている小売店さんもあって売り上げが少し伸びます。また、最近ではインバウンドの方がお土産としてまとめ買いするケースも多いようです」

 135ミリ缶にまつわる思い出を話してくれた人もいた。

「学生時代、バイト先の先輩が退職する最終日、休憩中にこっそり乾杯した。急に上司が入ってきてバレたけれど、見ないふりをしてくれた」(30代男性)

「二十歳になった記念に祖父と飲みたくて、入院先の先生に許可をもらって持っていった。お酒が大好きだった祖父はもう小さな缶も飲みきれなくなっていたけれど、本当にうれしそうに飲んでくれた」(30代女性)

 発売から間もなく40年。小さなビールは、誰かの日常を照らし、心に大きな足跡を残してきたのかもしれない。そんなことを考えながら、生まれて初めて135ミリ缶のプルタブを引いてみた。小さな缶も、やはり同じようにおいしかった。ちょっと物足りなくて、そのあと500ミリ缶も開けてこの原稿を書いたのだけれど。(編集部・川口 穣)

AERA 2023年9月11日号