AERA 2023年9月4日号より

 今後、首都圏ではJR系の駅そばには変化はあまりないかもしれないが、私鉄では鉄道系の店舗から独立系のお店に取って代わる傾向が進むと鈴木さんは予測する。

 小田急線の百合ケ丘駅でかつて小田急系の箱根そばだった店舗が「そば うどん元長(もとちょう)」に代わったケースもある。

「小田急線は『箱根そば』の天下だったので、まさか違う業者のそば店が入るとは思いもしませんでしたね。最近では私鉄系の駅そば店では他社系の駅そば店が出店し“交流戦”が起こっています。関東の私鉄の駅そばを運営する会社は関係がよく、共同で企画をすることもあるのです」(鈴木さん)

 今年2~3月、関東の駅そばを運営する5社(JR東日本クロスステーション、京急ロイヤルフーズ、東急グルメフロント、レストラン京王、小田急レストランシステム)で「えきそばめぐり~駅そばシールラリー~」を開催した。これはそれぞれの店舗でシールがもらえ、5色のシールを集めると先着でクーポン付き付箋がもらえるというものだ。

 JR系のいろり庵きらくも、JRの構内周辺以外で、東京メトロ新高円寺駅前に出店した例がある。

「いろり庵きらくは女性を意識した明るく入りやすい店舗づくりをし、女性客が増えています。味もがっつりと濃い味ではなく、マイルドなものにしています。駅そばはさまざまなチャレンジをしていますね」(同)

 駅弁フェアが開催され人気になっているので、ゆくゆくは駅そばフェアが開催されるのではと鈴木さんは期待を寄せる。

 駅そばをめぐる状況はきびしくはあるが、都市には働く人のための駅そばがあり、地方にはその地の名産を生かした駅そばがある。

 駅そばは駅にはなくてはならない社会の風景の一つになっているともいえる。この風景をいつまでも残していきたい。(ライター・鮎川哲也)

AERA 2023年9月4日号より抜粋