弁護士の青木千恵子さん(写真/本人提供)
弁護士の青木千恵子さん(写真/本人提供)

 青木さんは、そのバッジに痴漢の男が気づいて行為をやめるのを期待した。しかし、男の手がやむことはなかった。

 青木さんは警察に、「痴漢の男は、弁護士バッジを見なかったのか」と聞いた。すると、男は取り調べでこう話したという。

「お尻ばかり見て、バッジには気づかなかった」

 服装で自分を守るのは難しい。だが、「そんな服装をしているから被害に遭う」と考えている人がほとんどだと、青木さんは話す。

 痴漢の被害に遭う中学生や高校生は多い。

 青木さんの事務所にも、母親に付き添われて被害者の少女や女性らが相談に来る。

悪気はないのだろう。被害に遭った娘を前に、こう口にする母親も少なくない。

「電車で丈の短いスカートなどはくから被害に遭うのよ」

 しかし、肝心の被害者の少女らを見ると、「お尻や胸が見えそうな短いスカートや派手な服装の子は、ほぼいません」と青木さんは言う。

 青木さんによれば、「痴漢」をする人物の発想は、世間一般とはだいぶ違う。服装や色気のあるなしや好みのタイプであるといった理由で、相手を決めるのではない。

 犯罪を行う人間は、まず「捕まらない」ことを第一に考える。そのため、「痴漢に反撃しない、おとなしそうな相手」に狙いを定めるのだという。

 2022年に内閣府がツイッターで公表した科学警察研究所のデータが興味深い、と青木さんは言う。

 性犯罪者が被害者を選んだ理由の1位は、「警察に届け出ることはないと思った」37.2%、2位も「おとなしそうに見えた」36.1% である。

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 こうした調査は、昔からあるにも関わらず、世間の偏見は消えない。

 たとえば、「警察時報」に2000年に掲載された「性犯罪の被害者の被害実態と加害者の社会的背景」という論文では、500人を超える性犯罪容疑者 に、「なぜ被害者を狙ったのか」と質問している。やはり筆頭に来る理由は、「おとなしそう」、「警察に届け出ないと思った」というものだった。

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「助けて」の言葉が出せないからこそ…