敷地内に林立する、汚染水を浄化した「処理水」の巨大なタンク群。新たにタンクを設置する場所の確保は、難しくなってきている(写真:代表撮影)
敷地内に林立する、汚染水を浄化した「処理水」の巨大なタンク群。新たにタンクを設置する場所の確保は、難しくなってきている(写真:代表撮影)
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今も第一原発では1日4千人近くが働く。奥に見えるのが、水素爆発を起こし屋根や壁が吹き飛んだままの1号機の原子炉建屋(写真:代表撮影)
今も第一原発では1日4千人近くが働く。奥に見えるのが、水素爆発を起こし屋根や壁が吹き飛んだままの1号機の原子炉建屋(写真:代表撮影)

 廃炉に向けた作業が続く、東京電力福島第一原子力発電所。だが、処理水一つをとっても、先行きは見通せない。現地を取材した、AERA 2020年3月2日号の記事を紹介する。

【写真】水素爆発を起こし屋根や壁が吹き飛んだままの1号機の原子炉建屋

*  *  *

「ピー!」

 胸につけた線量計が、けたたましい音を立てた。

 東京電力福島第一原子力発電所。1月中旬、2011年の原発事故から9年を前に、記者は廃炉作業が続く第一原発に、合同取材団の一員として入った。音が鳴ったのは、敷地内で東京電力の社員から説明を受けていた時だ。

 線量計は構内に入る際に渡されたもので、積算線量が20マイクロシーベルト増えるごとに鳴る。5回鳴ると、東京─ニューヨークを飛行機で移動した時に自然界から受ける線量と同程度の100マイクロシーベルトになり、取材は打ち切りとなる。緊張したが、この日鳴ったのは1回きりだった。

 まずバスで案内されたのが、原子炉建屋から100メートル近く離れた高台だ。海抜35メートル。炉心溶融(メルトダウン)など未曽有の事故を起こした1~4号機、四つの原子炉建屋を一望できる。むき出しのままの鉄骨、変形した構造物。強固な建屋をも吹き飛ばした水素爆発の威力はまだ、随所に残っていた。東電の担当者が言う。

「昨年2月に2号機の格納容器の底にある核燃料などが溶け落ちた燃料デブリの接触に初めて成功し、昨年4月には3号機の使用済み燃料プールにある核燃料の取り出しを開始しました」

 この1年で劇的な変化はなかったが、少しずつではあるが廃炉に向け進んでいるという。だが、世界でも先例のない困難な作業を前に、待ち受けるのはいばらの道だ。

「想定以上のことが起きる。想定通りに機器が動かない」

 東電社員が指さした先では1、2号機共用の排気塔の解体作業が遠隔操作で続けられていた。この排気塔は、11年の事故時に格納容器の圧力を下げるベント(排気)で使われた。倒壊のリスクがあるため昨年8月から高さ120メールの上半分を解体する作業に入った。だが、切断機器の通信異常などトラブルが相次ぎ、作業員が排気塔の上端まで上がり、高線量下で「人力」で筒を切断するという異例の作業もあった。いま排気筒は上から約20メートルが切断され、高さ100メートル。当初、作業の完了は「20年3月中」を予定していたが、「20年5月上旬」に延期となった。さらなる延期の可能性は「ゼロではない」(東電)。

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