小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
この記事の写真をすべて見る
ジャンポール・ゴルチエさんは、ショーに初老のモデルを起用し多様性を訴えたさきがけでもある。1月、パリの引退ショーで (c)朝日新聞社
ジャンポール・ゴルチエさんは、ショーに初老のモデルを起用し多様性を訴えたさきがけでもある。1月、パリの引退ショーで (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【この記事の写真の続きはこちら】

*  *  *

 働き方を変えると、視野が広がります。私は2度、そんな経験をしました。1度目は会社員だった頃、最初の育休から復帰した時。それまでは情報の最先端にいるつもりだったけれど、子育ての現場で世間知らずを思い知り、たくさんの深い学びがありました。2度目の育休明けには不安障害という精神疾患を発症し、治療しながらの仕事復帰に。アナウンス部で電話取りをしていたら、後輩の人気男性アナに「この先、仕事なんてないかもしれないのに、いつまで会社にいる気ですか」と面と向かってマタハラされ(以来彼は私の負の記憶の殿堂入り)、そんなこと言われる筋合いねえよと反論したけど、子どもを産むとこんな目に遭うのかと悔しくてなりませんでした。働きながら家族と生きるとか、病気と付き合いながら仕事をすることって、人間誰しもあり得ることなのに。

 やがて、取り残されないように焦るよりも、中長期的にキャリアを考えようと発想を転換。自分のモチベーションは「とにかくオンエアされていたい」ではなく「小さなことでも世の中をマシにするために何かをしたい」だったのだな、と気づきました。それなら子育てもすごく重要な仕事です。こうして視野が広がり、のちの独立や執筆活動にもつながりました。

 今のテレビ局はその頃よりは働き方改革が進んでいます。それでもまだ、激務に耐える男性中心の世界。昨今の炎上コンテンツやテレビ離れの背景には、メディア企業が多様化の時代に対応できていない現状があります。人材の多様性、働き方の多様性、表現の多様性という三つの多様性に欠けていることが問題です。異なる生活実感を持った人材を集め、画面の外に広がる実社会との接点を増やせるような働き方を可能にすることが、才能ある制作者を育て、見る人との間に橋を懸けるのではないかと思います。

AERA 2020年2月17日号