「とても印象に残るお顔でしょ。文芸書のカバーに著者の顔を使うなんて例がなかったけど、これでいこう、と」
タイトル文字も、これまた文芸作品では異例の蛍光ピンクのローマ字表記にした。
「どこかの外国で出た日本人の文芸作品が、あまりにもそこでヒットしたので逆輸入され、日本語版を出しましたっていう風情にしようと。それが、ヒットの仕掛けのすべてです(笑)」
装幀は読者が本を手に取るきっかけになるもの。映画では「触感」というキーワードが何度も出てくる。ある紙の質感を「愛しい彼女の肌」と菊地さんが表現したり、印刷工場ではお気に入りの紙クロスに思わずある行為をしてしまう驚きの姿も。
「本を手に取り、『え? 何この紙、ただの紙に見えたけど少しザラついてる』と。そういう感覚が発生する一瞬に、その人の『私』が立ち上がり、言葉の世界に入っていく。その本の世界を読み始める最初のスイッチが、実は『触感』なんです。無意識の領域ですが、そこがとても大事です」
触感。電子書籍には、むろん望むべくもないものだろう。
「僕は、紙の本は絶対に消えないと思いますよ」
取材中、何度もきっぱりと、強く口にしたのが印象的だった。(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2019年12月16日号