オフィスの一角の黒板風の壁には、白いチョークで会社の掲げるミッションが描かれている。「テクノロジーとアイデアで建設業をアップデートする」
総勢30人のベンチャー企業ローカルワークスには2018年10月からちょっと変わったメンバーが入社した。「レンタル移籍」という制度を使い、1年限定でパナソニックから出向している松尾朋子さん(27)だ。
松尾さんがベンチャーへの出向者を募るパナソニックの社内公募に手を挙げたのは昨年5月。新卒で入社以来、千葉県の営業所で配線器具や照明を電気工事の代理店向けに販売してきた。工事店のおじさんたちにもかわいがられ、やりがいも感じていたが、4年目に入り日々同じことの繰り返しに「このままでいいのか」と疑問が湧いてきた。
工事業界の課題を解決したいという気持ちもあった。IT導入が進まず受発注はいまだに電話とファクスがメイン。
「そういう非効率性のためにお客様も私たちも忙殺されている。現状を変えたい。でも具体的な方策がわからないというのが、もどかしかった」(松尾さん)
そんな矢先に社内公募が目にとまった。外の世界を見ればヒントが見つかるかも──。結果、5人の枠に20人から選ばれた。
修業先にローカルワークスを選んだのは、ITで建設業界をアップデートするというミッションが自分の問題意識と合致したから。ローカルワークスの清水勇介社長も好印象を抱いた。
「大企業とベンチャーはカルチャーが違うので合わない人もいますが、彼女は明るくてノリがいい。業界も近いので即戦力になってくれると期待しました」
今、松尾さんのように大企業からベンチャーに一定期間「他社留学」する人が増えている。背景には、従来のような企業内のジョブローテーションや研修だけでは、時代が求める変革スピードや社員自身の成長欲求に応えられなくなっているという事情がある。
新規事業や組織変革の中心となれる人材を育成したいという大企業と、即戦力や組織づくりの助っ人が欲しいベンチャー企業。両社を結びつけるマッチングサービスの登場が、この流れを加速している。草分けは15年から「レンタル移籍」を始めたローンディール。制度の利用者は累計28社68人(10月からの移籍予定者を含む)、受け入れ先のベンチャー企業の登録数も240社に及ぶ。