亜江良(あえら)太郎さん(45)と妻の花子さん(42)を例に紹介しよう。共働きで子どもがいないため、老後の蓄えはしっかりしておこうと思い貯金をしている。相続する子どもがいないので、不動産は持たず、賃貸マンション暮らしだ。太郎さんは当然、自分の遺産は全額花子さんが相続するものと思っていた。

 しかし、亜江良家の場合、太郎さんが亡くなった時に太郎さんの親が健在であれば親に3分の1の相続権があり、親が亡くなっている場合、太郎さんの兄弟姉妹に4分の1の相続権がある。つまり、太郎さんが亡くなった時に花子さんが手にする遺産の法定相続割合は、前者の場合3分の2、後者の場合4分の3になるのだ。

 太郎さんは3人きょうだいで全員健在。両親は既に亡くなっている。この場合、太郎さんが遺言書を書かずに亡くなったら、妻の花子さんと2人のきょうだいの間で遺産分割協議をしなければならない。関係者全員の実印と印鑑証明も必要になってくる。太郎さんに先立たれ悲しみに沈む花子さんには、あまりにも負担の多い作業だ。

「遺産分割協議がまとまらず、配偶者が老後資金としてあてにしていた亡くなった配偶者の遺産をすぐ受け取れない、あるいは遺産分割がまとまらなくてそもそも受け取れないという事態が発生する場合もあります」(田上弁護士)

 もし太郎さんが「すべての財産を妻・花子に相続させる」とする遺言書を書いていれば、その必要はない。兄弟姉妹には遺留分(一定の相続人に、法律上保障された相続財産の一定割合)がないので、全額花子さんが相続できる。遺言書の内容は、法定相続分に優先するのだ。

 2018年7月、実に40年ぶりに「民法及び家事事件手続法」の一部が改正され、今年7月からは故人の預貯金の一部の引き出しが可能になったり、配偶者がそのまま自宅に住めるようになる(配偶者居住権の創設)などの改正が施行される。この改正のなかで、自筆証書遺言の方式も緩和された。

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