経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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麻痺。2019年は、この言葉がよく似合う幕開けとなった。
アメリカでは、メキシコとの間の壁の建設費問題で、トランプ大統領と議会下院で多数を占める民主党が四つに組んで動かない。おかげで、政府機関の広範な閉鎖状態が続いている。行政機能の麻痺状態だ。
フランスでは、黄色いベスト群団が大奮戦を展開してきた。それによって、増税策の撤回を始め、マクロン大統領が諸政策の見直しを余儀なくされている。政策的麻痺状態が現出している。
イギリスでは、EU離脱の手順と形を巡って、賛否が錯綜(さくそう)を極めている。国を挙げて知性の麻痺状態に陥っている観がある。
イタリアでは、跳ね返り者のポピュリストたちが政府を形成している。彼らのおかげで、経済社会的麻痺現象が常態化している。ドイツでは、バランス感覚絶妙なるメルケルさん時代がたそがれ時を迎えた。それに伴って、麻痺の帳(とばり)がするすると下りてきている雰囲気濃厚だ。
中国は、グローバル経済の成長牽引役を長らく演じてきた。だが、どうやら、まさしくその成長機能が麻痺を来しつつある。中国経済から成長という要素が抜けると、一体何が起こるのか。動いていなければ静止していられない。中国経済は、ここまで一貫して、そんな自転車操業状態の軽業的綱渡りを続けてきた。軽業ができなくなると、綱渡りはどうなるのだろう。