内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数</p>

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内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数
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新年初めの「大発会」の日経平均株価は2万円割れで取引が始まり、下げ幅は一時700円を超えた/2019年1月4日、東京都中央区で (c)朝日新聞社
新年初めの「大発会」の日経平均株価は2万円割れで取引が始まり、下げ幅は一時700円を超えた/2019年1月4日、東京都中央区で (c)朝日新聞社

 哲学者の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、倫理的視点からアプローチします。

*  *  *

 年の初めに、今年の予測を書いてみたい。つねづね申し上げている通り、未来予測はできるだけ具体的に書く方がいい。外れた場合にすぐわかるからである。なんとなく「想定内」に収まるような玉虫色の予測をする人がいるが、それでは自分の知性の不調を点検する役に立たない。

 未来予測をするのは、当たった場合に自分の知性の順調な機能を言祝ぐためではない。外れたときに、自分がどんなデータを見落としたか、どんな情報を過剰評価したか、主観的願望が状況判断にどれほどバイアスをかけたかを点検するためである。車の仕業点検と同じで、機能の不全を検知するための作業であって、性能のよさを誇示するためではない。「エンジンから異音がするが、オーディオの音質はすばらしい」とか「ブレーキの利きが甘いが、シートの硬度が玄人好み」とかいうような修理工場には誰も車検を頼まないのと同じである。

 こういう基本的なことが分かっていない人が多いようなので、年頭に控えめな苦言を呈しておく。私たちは自分の利口さを誇示するのと同じ程度の努力を、自分のバカさを適切に開示するためにも向けるべきなのだ。自分の言動が世の中に及ぼすかもしれない悪影響を最小化するための気遣いを忘れてはならない。

 文句を言ってるうちに紙数を使い過ぎてしまった。残る字数で2019年の予測をする。

【予測1】統一地方選、参院選で自民党が大敗。安倍政権による改憲の機会が遠のく。野党が候補者乱立で共食い状態になることを与党は期待しているが、さすがに野党政治家たちの政治的成熟度がそこまで低いとは思いたくない(願望)。

【予測2】株価が急落。これまで官製相場で必死に吊り上げてきたけれど、五輪・万博・カジノ・原発といった「打ち上げ花火」的な事業頼りで、賃金は低く、雇用は不安定、消費が冷え込んだままでは、日本企業が高く評価される理由がそもそもない。

【予測3】トランプの暴走が続き、米中関係は悪化、ブレグジットの混乱、そこに乗じたロシアの狡猾なマヌーヴァー(策略)で、世界はさらなるカオスへ。書いてみたら、誰でも言いそうな予測だった。

AERA 2019年1月28日号