ただ、詐欺的な案件も多い。米国の調査会社によると、仮想通貨イーサリアムを使うICOで昨年調達された16億ドル(約1800億円)のうち、1割にあたる1.5億ドルは行方が分からないという。「ICOの8割が詐欺」との声もある。
金商法などの法律が想定していない仮想通貨を巡る犯罪は取り締まりが難しく、犯罪の温床になっている可能性がある。ビットコインの「発明」から10年、手軽な投資対象として仮想通貨の普及が急速に進む中、消費者が思わぬ不利益を被るおそれは高まるばかりだ。
行政も手をこまぬいているわけではない。金融庁がこのような犯罪の取り締まりに使おうとしているのが、仮想通貨の交換業者を登録制と定めている「資金決済法」だ。
ICOの事業者は、仮想通貨で出資してくれた人たちに対して、「トークン」と呼ばれる独自のデジタル証票をネット上で交付する。一般の企業で言えば「株券」にあたる。事業が成功すればトークンが株のように値上がりし、出資者は売却益を得られたり、トークンを使って優先的にサービスを受けられたりするしくみだ。
金融庁は、トークンを仮想通貨の一種と見なせば、ICO事業者は仮想通貨の交換業者にあたると解釈。「無登録で仮想通貨の交換をしている」として、資金決済法違反に問える可能性が高いとみる。ただ実際に立件された例は無いとみられ、司法がどう判断するかは未知数だ。
規制強化を求める声がある一方、ベンチャーにとって有力な資金調達手段になるとの見方もある。金融庁は有識者や業界関係者を集め、今後の規制のあり方について議論を進めている。
河合弁護士は指摘する。
「仮想通貨を扱ったもうけ話は、基本的には疑ってかかった方がいい。投資を検討するならば、業者が金商法や資金決済法で定める登録をしているかを最低限確認するべきだ」
(朝日新聞記者・榊原謙)
※AERA 2018年12月3日号