プログラムでは、一頭につき4~6人がチームとなり、週末に預かる地域のボランティアと協力して育てていく。ボランティアと受刑者が直接顔を合わせることはないが、飼育日誌を介してともに一頭の犬を育てるうちに、「いつもありがとうございます」「体に気をつけてください」といった温かな交流が生まれている。刑務所で育てられた子犬の中からはこれまでに12頭の盲導犬が誕生した。

 プログラムに参加した受刑者には、ポジティブな変化が生まれている。言葉が通じない犬の気持ちを理解しようとする過程で共感力が高まること。幼かった子犬が成長していく姿を見るうちに、「自分も成長できる」と希望を持つこと。

 子犬が夜中に下痢をして眠れぬ夜を過ごし、自分もこうやって育てられたのか、と親の愛を感じた人もいる。子犬の排泄の世話をするうちに、自分の子どものおむつを替えたこともなかったことに気づき、子や妻との関係を修復しようとする人。命への感受性が高まり、出所後、老人ホームでボランティアをしたり、捨ての保護を手伝ったりする人もいる。

 他者を思いやり、慈しむ……人が言葉で教えられないことを、動物たちは身をもって教えてくれる。

 共感力を高め、同時に命を救うウィンウィン・プログラムとして、最近アメリカで急速に増えているのは、受刑者の力を借りて保護猫を人にならし、殺処分を減らそうというものだ。ある男性刑務所では、10年間で750匹以上、預かったほぼすべての猫の譲渡に成功している。

 猫とともに生活し、そばに来ればおやつをあげるなどして、少しずつ警戒心を解いていく。人間を恐れる猫との間に信頼関係を築いていく過程は、犬の訓練に比べると静的だが、トラウマなどで心が固まっている人の回復には、活発な犬より猫のほうが効果的だと言われている。

 日本でも法務省が「少年院における動物(犬)介在活動等検討会」で14年度にガイドラインを制定するなどし、徐々に増えてきた。現在7カ所の少年院と2カ所の刑務所で犬を介在したプログラムがおこなわれている。

 相手が犯罪者であろうと、自分をかわいがってくれる人には無条件の信頼と愛情を与える動物たち。そんな愛し方は人間にはなかなかできない。動物たちは罪を犯した人を立ち直らせる魔法の処方箋ではないが、たしかに救われる人がいる。私たちはもっと動物の力を借りていいのではないだろうか。(ジャーナリスト・大塚敦子)

AERA 2018年11月5日号